#190 『霊道』

 アパートの屋根を、人が歩くのだ。

 しかも昼夜などまるで関係無く、四六時中誰かがそこを通り過ぎて行く。ベタベタ、パタパタ、ドタドタと、うるさくて仕方がない。

 もちろんその屋根の上に道路がある訳ではない。屋根は屋根であり、他の用途は何もない。ただのアパートメントの二階の屋根と言うだけのものである。

 ある日、とある霊能者のサイトにアクセスし、その件で相談をした事があった。返事はすぐに来た。「霊道が通っているに違いありません」と。そしてその後に続く詳しい説明を聞き、俺も納得をした。その霊能者が言う通り、足音は常にとある地点から始まる一方通行であり、その足音も常に大きさから歩幅まで様々で、定まってはいないのだ。

 要するに俺の住んでいるアパートの屋根は、幽霊の通り道だと言う事になる。「普通の人ならば足音など聞こえない筈なのだが、あなたは特別なのでしょう」と、話はそこで締めくくられていた。

 理由は分かったが納得の行くものではない。とある徹夜で帰宅した晩、あまりの足音のうるささに俺は思わずカッとなり、ベランダから屋根に向かって日本酒やら塩やらをぶち撒いて「他を通りやがれ!」と怒鳴ってしまったのだ。

 不思議と足音はぴたりと止んだ。それ以降、足音は全く聞こえなくなった。

 関係無いのだがほぼ同じタイミングで、近くにある雑居ビルの二階のショットバーが突然潰れた。良く通っていただけに残念である。しかもそれ以降、そこに入る店舗は僅か一ヶ月か二ヶ月ですぐに閉店してしまうのだ。

 俺には関係無いとは思うのだが、何故か申し訳ない気持ちで一杯だ。

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