#96 『土着信仰 風葬』
昔、「山が鳴る」と言われる事で知られる、そんな場所に住んでいた。
山中で地面を強く打つと、音が響くと言う現象が起こるらしく、専門家いわく「地下が空洞の可能性がある」と主張しているのだが、“こだま”か、木々の反響であると地元民はその意見を突っぱねている。
話は変わるが、我が地元では少々、他所とは葬儀の内容が違っている。私自身が他に移り住み、他所での葬儀を経験したからこそ分かる事なのだが、我が地元の葬儀はかなり特殊なのだ。
人が亡くなり、通夜を行い、火葬する。ここまでは一緒だ。だが実際には遺体を焼かない。火葬場は単なる通過儀礼のようなもので、遺体は棺ごとどこかへと運ばれて行く。実際私も見たものだが、火葬許可書も埋葬許可書も自動的に発行されて来る。つまりは火葬場も墓も形式的なもので、現実的にはまるで機能していないのだ。
なら、火葬されていない遺体はどこへと運ばれるのか? 私はその事を何度か親父に聞いたものだが、いつもその答えははぐらかされていた。
私は大学卒業後、都内へと移り、そこで結婚をして所帯も持った。そうして子供にも恵まれ、平穏な生活を送っていたのだが、ある日、親父の訃報を聞いて単身田舎へと飛んだ。
やはり昔通り、通夜が終わった後、親父の遺体は棺ごとどこかへと運ばれて行った。
とうとう実家で一人きりとなった母に、この辺りの葬儀の特殊さについて質問した。すると母はぼんやりとした目つきで、「風葬よ」と教えてくれた。
何でも、地元でも数人しか知らないと言う山中の洞窟があると言う。遺体はそこへと運び込まれ、奥の方に開いている穴の中へと放り込まれるのだ。
「何故?」と聞けば、「大昔からそうだったの」と、母は言う。
「でもこの事は他言しちゃ駄目よ。生きたまま放り込まれる人もいたりするから」
私は昔、山が鳴ると言われる場所に住んでいた。今でも思う、もしかしたら“鳴る”のではなく、“鳴く”の間違いではないかと。
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