#750 『墓場まで持って行く筈の秘密』
これは筆者が二十代の頃に体験した実話である。
“正紀”と言う名の、長い付き合いの友人が急死した。まだ新婚とも呼べる、若い奥さんを置いての事である。
通夜には正紀の友人数名が同席した。その中の二人ほどは正紀を通じての顔見知りではあったが、それ以上の仲では無かった。
夜の九時を回り、長い夜になるなと覚悟をしていた頃。同席している中の一人に電話が入り、急用が出来たと言う事で席を抜けて行ってしまった。
すると不思議な事にそれが皮切りに、次々と電話が入って来て、「急用で」と、通夜の席から人が消えて行った。
「すまん、お袋が高熱出してるって言うんで」と、とうとう最後の一人が消えて行く。
同時に私は、「これは何かあるな」と察した。
残ったのは未亡人となった正紀の奥さんただ一人。するとその奥さん、私の顔を見て、「怖いので離れないでいてくれます?」と、半泣きでそう言うのだ。
「大丈夫ですよ」と、私は彼女の目の前で携帯電話の電源を切る。と同時に着信音が鳴り響く。――私のではなく、その奥さんの携帯電話である。
「はい――えっ? あ、はい……はい……」
奥さんはひとしきり困惑した顔で頷き電話を切ると、「すみません、ちょっとだけ家を離れます」と私に言うのである。
あぁ、用事があったのは私の方かと確信する。そして私は、「どうぞごゆっくり」と彼女を見送り、そうしてから家に誰もいないのを確かめた上で柩の前へと戻り、「何の用だ?」と正紀の亡骸に向かってそう聞いた。
ガタン――と、家の二階から音がした。私はすぐに二階へと上がり、断続的に鳴り続ける音の出所を探る。するとそれは生前に正紀が使っていた自室からで、入ると箪笥の一部からそれが鳴っているのが分かった。
ここかと検討を付けて中を探れば、そこには正紀と見知らぬ女性が写る、写真が数枚出て来た。
私はすぐに意味を察し、その写真をポケットにしまう。それから又、用事を済ませた奥さんや友人達がちらほらと家へと戻って来た。
翌日、葬儀も終わり、いよいよ納棺となった頃、私は封筒に入れた例の写真を正紀の柩の中に忍ばせた。
後に、「あのお手紙、何だったのですか?」と奥さんに聞かれ、「生前彼と、墓場まで持って行くと約束した品です」と、私は誤魔化した。
その後、奥さんはまた別の人と再婚を果たし、今では二児の母となっている。
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