#34 『リビングで』

 真夜中だろう時刻に目が覚めた。恐らくは寝室の照明が突然に点いたからだ。

 何が起こったのだろうと目をしばたかせると、隣のベッドの上に立ち、照明の紐を引いている夫の後ろ姿がそこにあった。

「あなた、どうしたの?」聞くが夫は何も答えない。

 夫は黙ってベッドを降り、寝室のドアの方へと向かう。

 トイレだろうか? いや、いつもの夫ならば電気は点けずに行く筈なのに。

「ねぇあなた、どうしたの?」重ねて聞くがやはり答えない。夫はドアを開け、暗い廊下に一歩踏み出すと――

「うわああああああああ!!!」と、突然大声で泣き始め、両手で頭を押さえながらその場でしゃがみこんだ。

 これはただ事ではない。察した私は「ねぇ、どうしたのよ!?」と叫び、ベッドを降りた。

 同時に夫は泣き止んだ。どころかそこに夫の姿は無い。今の今までしゃがみこんでいた場所には、誰もいなかったのだ。

 左右に暗い廊下が続く。見れば向こうにリビングからの明かりがほんのりと漏れ出ているのが見えた。まさか一瞬でリビングに移動したのだろうか? 怪訝に思いつつそちらへと向かうと、確かにそこの床の上に夫はいた。

 解剖の結果、死因は心臓発作だと言う。発見から死後三時間は経っていたらしい。

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