#33 『幽霊屋敷』

 家の近所に幽霊屋敷がある。だが実際に幽霊が出る訳ではない。外観がほぼ廃屋に近いぐらいに荒れていて、そこに住む老人が恐ろしく偏屈で変わり者だったために付いた名前だ。

 季節によっては家の庭に植わった木々に琵琶や柚子などが生ったりしたが、当然誰もその実を欲しがったりはしなかった。

 老人は恐らく六十代ほどの男性で、いつも小汚い格好で出歩いていた。体臭がとても強烈で、たまに近くのファストフードなどにいたりすると、その匂いのせいで皆が店から出て行ってしまうぐらいであった。

 ある日、私が学校帰りに幽霊屋敷の前を通ると、その屋敷の前に立ち呆けている老婦人の姿があった。一体何を見ているのだろうと彼女の近くに立ち、同じ方向を覗くと、幽霊屋敷の二階の窓辺に立つ、二人の影が見えたのだ。二人は窓に背を向けていて顔までは分からなかったが、何かを話しているのだろうか、微動だにせずそこにいた。

「見えたか」と、突然そんな声が聞こえて来た。我に返ると、立っていた老婦人が私に話し掛けて来ていたのだ。

「見えたか。なら覚えておけ。ここのバカ息子はろくなもんじゃねぇ」

 私は気味が悪くなってそそくさと家に帰った。

 ある時から、幽霊屋敷の老人の姿を見掛けなくなった。時々いるファストフード店にも顔を出さず、家にいるふうでもない。近所の人々は「孤独死してるんじゃないの」と噂したが、結局その噂は当たっていて、老人は半年間も見付けてもらえないまま、白骨化していたそうだ。

 ただ、見付かったのはその老人だけではなかった。かつてはその老人の両親だった人なのだろうもう二体が、二階の部屋で見付かったそうだ。

 老人は、両親の年金の不正受給で暮らしていたらしい。

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