#15 『地蔵』

 家の近くの道端に、小さなお地蔵さんが祀られている場所がある。

 ある日の出社時の事、そこを通り掛かると、そのお地蔵さんに向かってしゃがみ込み、手を合わせている小太りな中年女性の姿が目に入った。

 茶系のスカートに黄土色のセーター。ひっつめた髪にサンダル履き。顔は見えずとも非常に地味で、人に派手な印象を与えるタイプではないだろうと思った。

 そんな女性の背後を通り過ぎ、最寄りの駅へ。

 改札を抜け、朝の混雑した駅のホームに立つ。向こうには反対側のホームが見える。ごったがえした人の群れの中、こちらに背を向けてしゃがみ込み、拝んでいるかのようなスタイルの女性の姿が目に入った。先程、お地蔵さんの前で見掛けた女性そのものだった。

「何故あんな場所に?」と言う僕の疑問はその一回限りでは無かった。

 以来、その女性の姿を至る場所で頻繁に見掛けるようになった。あれはきっと幽霊の類なのだろうと、僕は当時の事を思い返す。

 あれから十数年。僕は都内へと引っ越しをし、今はもう妻も子もいる落ち着いた生活を送っている。

 ぼんやりと台所に目をやる。シンクの前、しゃがみ込んで手を合わせ、何かを拝む女性の姿が見える。

 今以て、あの女性は僕から離れてはいない。

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