#788 『路肩の砂』
ある日突然に、私はその異変に気が付いてしまった。
家から駅まで向かう途中、とある何の変哲もない箇所の路肩に、とても小さな盛り塩があった。
だが良く良く見ればそれは塩ではなくただの砂。もしくは乾いた土であろうもの。それが路肩のガードレールの真下辺りに小さく盛られているのだ。
その道は私が中学に通う辺りから使っていた道路で、数えれば都合九年ほど毎日そこを通過していた筈である。そしてその九年目にして初めてそんなものを目にした。と言うよりも気付いてしまった訳だ。
以降、そこを通る度にそれを目にするようになった。――が、ある日突然にその盛られた砂は消えた。だがしばらくするとまた小さな盛り砂がそこに出来上がる。それが不定期で繰り返されるのだ。
理由はしばらくして分かった。時折その道を清掃する人がいるらしく、その周辺の砂や塵が掃いて無くなれば盛り砂は出来ない。そしてしばらく経って道路が汚くなればまたその盛り砂が出来ると言った次第だ。
誰が作っているのかは知らない――が、おそらくは誰がと言う訳ではなく、人知れず自然にそれが出来るのだろうと私は密かにそんな想像をしていた。だが例えそれが超自然的なものだったとしても、何らかの意味はある筈。私はなんとなくそう感じていた。
ある風の強い夜。その翌朝には例の場所に小石が積まれた山が出来上がっていた。
私はその瞬間ハッとした。これは石積みだと。私は通勤途中だと言うのに家へと取って返し、例の場所で以前に誰かが亡くなっていないかと家族中に聞いて回った。すると――
「あんたがまだ小さかった頃、近所の男の子があの近辺で車に撥ねられて亡くなった」と、祖母が教えてくれた。
次にその亡くなった子供の家を聞いた。それもすぐに分かった。私は余計なお節介なのは承知の上でその家を訪ねた。
そこの家は、初老の女性が一人で暮らしている家だった。私は怒られるのを覚悟の上でその出来事を女性に話せば、彼女は私に手を合せて、「ありがとう」と告げた。
聞けばそれは十数年前の事。我が子をそこで亡くして以来、一度もその場所へと足を運んだ事が無かったと言う。
「今日、迎えに行きます」と、その女性は言った。
翌朝からはもうその場所に、盛られた砂や小石が出来る事は無かった。
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