#677 『トンネルで擦れ違った人の話』
僕がまだ子供の頃の話だ。その当時につるんでいた同級生達と、近所のトンネルで肝試しをしようと言う事になった。
但しまだ小学生当時だった頃だ。夜は当然出歩けないので、日中、陽が高い内の決行となった。
トンネル自体はそれほど長いものではなく、入り口に立てばその反対側の出口がそこそこには大きく見える程度の距離である。だがそのトンネル自体は既に廃トンネルとなっており、中に入れないよう車止めのポールが立っているのだ。
先に友人二人が向かい、どちらも反対側まで行って無事に帰って来た。次に僕の番となったのだが、中へと入りそろそろ出口だなと言う辺りで、向こうから来る老人男性と擦れ違った。
「坊やどっから来たの。向こう側はなんも無いよ」
言われて僕は困った。ここを普通に使っている人がいるとは思っておらず、素直に「肝試しです」とも言いにくい。そこで咄嗟に出た言葉が、「罰ゲームやらされてて」であり、同時に僕は背後の友人達を指差した。
「そりゃひどい事するねぇ」と老人は笑い、「少しこらしめてあげようかね」と、友人達の待つ入り口方向へと歩いて行ってしまった。
その時の僕の心境は、あぁ咄嗟に誤魔化さなきゃとは言え、嘘を言ってしまったと言う後悔。同時にそれが友人達にバレたらどうしようと言う懸念。仕方無く僕は急いでトンネルを抜け、今度はその老人の後を追って急いで入り口へと向かった。だが――
「えぇ? 誰も来てないぞ」と、友人達。僕は今しがたトンネルの中で会った老人の事を一生懸命話すのだが、誰一人としてそんな人は出て来なかったと言うのだ。
結局、僕の勘違いか、脅かす為の嘘だと言う事で片付けられた。しかしその翌日の月曜日、何故か一緒に肝試しをした同級生全員が体調不良を理由に欠席をしていた。
しかしその翌日である火曜日には全員が学校に来ており、そしてその全員が、トンネルで僕が会った老人の話を忘却していたのだ。
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