#146 『拒む場所』

 近所に“何も建たない土地”がある。

 僕がその地に越して来てまだ僅か十年足らずなのだが、それでも僕の知る限り、管理会社が四度も替わり、宅地予定地の看板も五、六度替わっていたりするのだが、結局は予定のままで何も建たずに終わってしまう、そんな土地があるのだ。

 坪数にして約八十坪ほど。なかなかの広い土地だし、周りが住宅ばかりなので、ここに何か店を建てるだけでも充分に儲かるだろうと思える好条件な場所なのだが、どうしても何も建たないのである。

 地鎮祭などは年に三回から四回ほどやっている。そして重機が乗り込む所までは行くのだが、いつも基礎工事が始まる前に撤退している。一体そこで何が起こるのかまでは知らないが、一度だけ重心の安定したショベルカーが横転しているのを見掛けた。おそらくはとんでもなく面倒な土地なのだろう。

 そんな理由からか、その土地は常にトラロープで囲われており、人が入れないようになっている。もちろんそれでなくても、中に入りたがる近隣住民は誰もいない。

 一度だけ、敷地全てに砂利が撒かれ、月極駐車場となった事がある。なるほど、それなら何も建てる必要は無いなと思ったが、そう甘くはなかった。その土地の噂を知らない人達が借りたのだろう乗用車が十数台は入っていたが、一ヶ月もしない内に台数はゼロとなって、結局は駐車場の看板も下ろされた。

 結局その土地は市が買い取ったのかどうかまでは知らないが、管轄が市のものとなり、“公園予定地”と言う看板が立てられた。

 僕は少々その土地に興味を持ち、市立の図書館や郷土資料館などに足を運んでその土地の“以前”を調べてみたりしたのだが、いくらさかのぼっても常にそこの土地だけは空き地で、結局は江戸時代まで行き着いたが、きっとそれ以前から空白地帯だったに違いないと僕は思った。

 もちろん土地は今もトラロープで囲われたままで、予定地の看板もただそこに立っているだけである。

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