#722 『屍姦』

 筆者が葬儀屋さんに聞いた怖い話、三夜目。

 一夜目に書いた通りこのシリーズは二話で終わる予定であったのだが、色々と考えた結果、当初から「ボツ」となった話も掲載する事となった。

 とても胸糞悪い話で恐縮だが、嫌でなければ是非一読して欲しい。

 ――葬儀の依頼が来た。ご遺体はとある一家の十七歳になる娘さんである。

 担当は私と、同僚のHの二人。ご遺体は一時お預かりして社へと戻り、清拭等の遺体処理をする事となる。そこでとても嫌な発見をしてしまった。

「これ、悪戯されてるな」とH。私もその匂いで分かった。男の精液の匂いである。

 ご遺体は病院から自宅へと運ばれ、そして今ここにある訳なのだが、おそらくは自宅へと到着した際に屍姦されたのだろうと理解した。

「家族構成、どんなだった?」と私が聞けば、「結構多かったな。オヤジに祖父に、男兄弟が二人」とH。考えればどれも怪しい。

 結局我々は何も見なかった見付けなかった事にして綿詰め行い、処理は終了した。

 遺体はすぐに葬儀には出さず、三日間ほど遺体保管庫に寝かせられる事となったのだが、その日から毎日、「姉に逢わせてください」と、そのご遺体の弟が訪ねて来ていた。

 そしてその弟は姉の遺体を見てしばらく手を合せ、その場で泣き崩れる。それを見て私は、「あぁ、悪戯したのはこの子ではないな」と考えていた。

 そして通夜の日。ご遺体をまたご自宅へと運び、祭壇を作る。そこで一悶着があった。

「俺の子じゃないのに、何でこんな金掛けて葬式なんかするんだ」

「何よその軽薄な言い掛かり!」

「誰がねえちゃんをこんなにしたんだ、バカヤロウ!」

 家族全員で、ほとんど掴み掛からんばかりの喧嘩が始まった。そしてとうとう恐れていた事が起きた。毎日保管庫に来ていた弟が父親を殴り倒し、その上に乗って首を絞め始めた。

 さすがにそれは我々も止めたのだが、その瞬間、どこからか甲高い笑い声が聞こえた。

「フッヒヒヒヒヒヒヒ――」

 それはさながら肺から空気が漏れ出るかのような笑い声で、その瞬間誰もがその場で凍り付いた。声は間違い無く、柩の中からだったのである。

 その後は何事もなく終わり、翌日の告別式も無事に済んだ。

 遺骨を壺に収め、さぁ帰ろうかと言っていた時だった。

「フッヒヒヒヒヒヒヒ――」

 またしても昨日と同じ笑い声。しかも今度は、よりにもよって骨壺を手にした兄の笑い声だったのだ。

 それを聞いて誰も何も言わない。もしかしたら我々の知らない、家族間だけの“何か”があったのだろうと推測される。

 結局、あの遺体に悪戯をしたのは誰なのか、全く分からず終いであった。

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