#391 『真夜中の出来事・参 閉まる』

 真夜中の通勤途中に遭遇した奇妙な出来事。その三夜目。

 ――家からすぐ近くの所に、アーケード街がある。通りの真上に屋根が付いた商店街だ。

 家から近いと言う事は、帰り道となると会社から見て一番遠い場所と言う事になる。ある晩そこを通り、もうすぐ家だと言う頃、とある一軒の店のシャッターが半開きとなって、その下の方から光りが漏れ出しているのが見えた。

 自転車の速度を下げて近付く。どうやら中には大勢の人がいるらしい、がやがやと話す音と、人が歩く影が確認出来た。

 半開きのシャッターには、“閉店”と大きく書かれた張り紙があった。だが、以前にそれがどんな店だったのかは知らない。なにしろそのアーケード街、今では半分以上がシャッターを閉めている、閑散としたシャッター街になりつつあったからだ。

「ねぇお父さん、これはどっち置けばいい?」

「そこだと邪魔になるんじゃないの?」と、中でどたばたとやっている音がする。もしかすると店が入れ替わり、新規オープンでもするのかな等と思いつつ、通り過ぎた。

 翌日、私は午後の二時頃に起き出し、買い物へと出掛けた。そして自転車でアーケード街を通ったのだが、昨日シャッターが開いていた店の辺りであろう場所に、大勢の人だかりが出来ていたのだ。

 近付いて驚いた。やはり昨夜と同じ店だ。何しろ昨夜同様に半開きになっているシャッターには、“閉店”の張り紙。そしてそこに大挙しているのは警察官で、シャッターをくぐって忙しそうに出入りしている。

「亡くなったのはこの店の主人だった人らしくてねぇ……」と、どこからか噂話が聞こえて来た。私はそれに事件性を感じ取り、警察官の一人を捕まえ、「すみません、昨夜ここを通り掛かった者ですが」と訴え出ると、すぐに「何か見た?」と質問された。私は、大勢の人がこの中にいた事を告げると、少しだけ待たされた上で、別の警察官の人から更に詳しい説明を求められた。

 私は何か有益な情報になればと思っての事だったのだが、話せば話すほど、警察の人達の顔色が強張って行くのを感じていた。

 何度も、「この店で間違いないですね?」と繰り返された上で、「ちょっとだけ中見てもらおう」と言う事になった。

 私はそのシャッターをくぐって驚いた。何も無い狭い部屋の中に青いビニールシートが敷いてあり、その周囲に五つもの七輪がぐるりと取り囲んでいる。窓やドアには目張り跡。すぐに分かった、練炭による自殺だと。

「亡くなったのは昨夜の零時過ぎ。そして先程、警察署に通報があるまで内側からの目張りはされていたままだった」

 要するに、深夜の二時に店のシャッターが開いていて、人が出入りしている訳が無いのである。

「でも嘘じゃないんです」と告げると、警察官もまた、「良くある話です」と頷き、「見付けて欲しかったんですしょう」と締められた。

 これはかなり後で聞いた話だが、そこの店の主人は、交通事故で息子夫婦を失った嘆きからの自殺だったらしい。

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