#4 『受験勉強』

 僕が中学の時、兄が亡くなった。僕の部屋の隣の自室で、明け方にひっそりと心臓発作で亡くなっていたのだ。

 兄は少し上のランクの大学を目指しており、過度の受験勉強が祟ったせいだと思われた。

 そして数年後、次は僕自身の受験勉強で忙しくなっていた。狙った訳ではないが、兄と同じ学校を狙っていた。

 そうして真夜中どころか明け方近くまで勉強をしていると、時折、兄の部屋からドアを開け、トイレに行って戻る謎の足音が聞こえるようになった。

 最初は気のせいだと自分に言い聞かせてはいたのだが、ある明け方の事、いつも通りの足音が聞こえ、それが兄の部屋へと戻った後、「寝ろ!」と、壁を叩かれそう怒鳴られた。

 大学はランクを下げ、無事に合格した。以来、兄の足音は聞こえて来る事がなかったが、就職が決まり家を出る事となった時、一度だけ隣室の壁が叩かれた。

 多分あれは「行って来い」の合図だと思う。僕は同じように壁を叩き返した。

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