#573 『確かめてくれ』

 十数年前。友人四人と心霊スポット巡りをした時の事である。

 バイトで貯めたお金で俺が新車を購入すると、高校時代の友人達がそれを見に来て、ついでにどこかへと行こうと言う事になった。

 だが、どこかへ行こうと言っても夜更けの事である。近隣に開いている店は無く、都内まで繰り出そうにも少々不便な田舎な為、時間が掛かるのである。

 すると何故か、心霊スポットに行こうと言う意見で落ち着いた。そうして向かったのは悪評の高い某トンネルであった。

 車は街道沿いにある路肩へと停めた。皆で懐中電灯を持ち、さぁ行こうと言う段になって、友人のFが「俺行かない」と言い出す。

 すかさず皆で、「怖いのか」と囃し立てたが、Fはいつも通りな無表情で、「興味無いだけ」と言う。

「俺元々心霊系は信じてないし、ぶっちゃけ怖くもないから。皆で行って来てよ」

 聞いて皆は更に「苦しい言い訳」だの「ビビり論」だのと騒いだのだが、「俺はここで車見張っておくから行って来い」と、Fは頑なに行くのを拒む。

 仕方無く、俺を含む三人は車を降りてトンネルへと向かったのだが、途中でトンネルに反響する靴音に、やたらと早足なものが混じって来た。

「誰か後ろから走って来る」と、友人の一人が告げた。

 一斉に懐中電灯の光がそちらへと向く。するとそこに現れたのは車に残ると言い張ったFであった。

「やっぱ怖くなったんだろう」と皆は笑う。だがFは何も言い訳せずに両手で自分の身体を抱き、小刻みに震えている。

「もしかして……なんかあった?」聞けばFはゆっくりと頷く。思えばたった一人、車の中で留守番をしていたのだ。逆の立場ならばそちらの方が怖い筈。

「何があったんだよ?」聞くがそれには答えない。Fはただ、誰とも目を合わせないようにして震えながら、「行けば分かる」と言うのだ。

 正直、次に慌てたのは俺自身だ。なにしろ買ったばかりの新車で“何か”が起きたのだ。しかも今は誰も乗っておらず、ドアも開きっぱなしで乗り捨てて来ているのだ。それで慌てない訳には行かない。

 さっさと戻ろうと俺は主張するが、Fの怯え方を見て他の二人は腰が引けている。

 それでもなんとか車まで戻れば、車内には明かりが灯り、後部座席に誰かが乗っているであろう動きが見て取れた。

「誰かいる」誰もがそう指摘しつつ、誰も車に戻ろうとしない。仕方無く俺が近付き、ボンネットを強く叩いて、「誰だこらぁ!」と、怒鳴り声を上げた。

 スーッと後部座席の窓が開き、そこから人が顔を覗かせる。

「なんかあった?」顔を出したのはFだった。

 振り返ればそこにFの姿は無く、俺らは急いで車に乗り込み、すぐにその場を立ち去った。

 関東最凶とまで呼ばれる、青梅市の旧吹上トンネルでの出来事である。

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