#23 『穴を掘る少女』
「お母さん、またあの子来てるよ」と、娘が言う。
居間のカーテンを開けると、確かに裏庭の木の下で小さなスコップ片手に穴を掘る少女の姿が。
「こら!」と、窓を開け大きな声を上げると、少女は慌てて逃げて行く。まぁ、最近の子はどう言う躾されているんだろう。勝手に人の裏庭に入り込み、遊ぶなんて。
木の下には掘り掛けの小さな穴。いつもいつもあの子は、あそこで何をしているのだろう。疑問ばかりが残った。
ある日の事。用事を終わらせ帰宅をすると、裏庭に続く門塀の戸が開いていた。そっと覗くといつもの少女がいつもの場所で穴を掘っている。これはいい機会だと思い声を掛けると、少女は逃げ場を失い、おずおずと「ごめんなさい」と謝った。
聞けば少女は昔、この家に住んでいた子だと言う。そしてあの木の下にはとても大事にしていたものを埋めてあるのだと。私はそれを聞き、ならばそれは私が探しておいてあげるからと、そう約束してしまった。すると少女はとても明るい表情で、「ありがとう」と頷いた。
また近い内に来ますとだけ少女は言って、裏口から帰って行った。そうして私は夫の帰宅を待ち、一緒にその木の下を掘り返す事にした。
――警察の取り調べはその日の深夜に及んだ。出て来た遺骨は鑑識へと回され、結局その晩は一睡も取る事が出来なかった。
後で聞き知った事なのだが、かつてこの家に住んだ一家がおり、その家の長女が行方不明になる事件があったと言う。そしてその行方不明の長女と、裏庭の白骨死体とが一致し、その家族の両親が逮捕されたとも聞いた。
「その子の写真、入手出来たんですが、見ますか?」と、担当の刑事に言われたが、私は首を横に振った。
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