#24~25 『冷蔵庫』
地元で奇妙な都市伝説が広まった。町外れの高台にある、観光ホテルの廃墟の一室に、放置されたままの冷蔵庫があるのだと言う。それにまつわる噂は二つある。一つは、“その冷蔵庫を開けた者はいない”と、“もしも開けて中を見てしまった者は、その日の内に死ぬ”だった。とても矛盾した二つの噂だったが、その時はさほど気にも留めていなかった。
俺は友人数人と、朝からその廃墟へと向かった。日中だったせいか、それほど怖いとも思わなかった。但し、想像以上に巨大な廃墟だった為、探索は全員で手分けして行う事になった。
捜索から数時間が経った。見て回る場所は全て空っぽで、冷蔵庫どころか椅子の一つすらも無い。これは完全にデマ情報だと思った矢先、友人の一人からとても狼狽し怯えきった声で、連絡が入った。内容は西棟の管理室から地下に来いとの連絡だった。
果たして、地下室はあった。巨大なタンクが並ぶ、いわゆるボイラー室と言うものだ。
震えた声のその友人は俺たちをそのボイラー室の裏手へと連れて行き、更には奥の突き当たりの壁まで行く。そこでようやく、その奥にもう一つ扉があるのが分かった。問題の冷蔵庫は、その扉の向こうの休憩室のような場所に置いてあった。
一見して異常と思える冷蔵庫だった。それはごく普通のドア三枚からなる大型の冷蔵庫だったのだが、真ん中の扉の上部から、ドア外側に長く黒い髪の毛が垂れ下がったままに閉められているのだ。何故かその部屋だけ異様に生臭く、そして“何者か”の気配に満ちていた。
想像だけ働かせれば、それは完全に“冷蔵庫に誰かが閉じ込められている”と言う状況。俺たちは口々に「警察案件だろう!」と主張をしたが、その友人の中の一人が、「開けて確かめてから」と言って聞かず、その冷蔵庫の前へと立った。
俺たちは固唾を飲んで見守った。だが、冷蔵庫のドアは開かなかった。俺も確かめたが、渋いとか言うレベルではなく、完全にピクリとも動かないぐらいに固く閉ざされていたのだ。
だが、噂の一つは確かなものだったと理解出来た。“開けた者はいない”は、きっと本当なのだろう。とにかく一刻も早くここを出ようと言う意見で一致し、その冷蔵庫に背を向けたその瞬間だった。
パクン――ずるずるずる――どちゃっ――
音だけで分かった。あれほど固かった冷蔵庫のドアが開き、中に入っていた“何者か”が、床に落ちてぶつかった音。
俺たちは走った。完全にパニックになりながら走ってそのホテルから逃げ出した。
翌朝、一緒に行った友人の一人が部屋で亡くなったとの連絡を受けた。死因は自殺だったらしい。
仲間内では、「逃げてる時、あいつだけ振り返ってしまったのでは?」と、噂している。
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