#115 『カーナビ』

 中古のカーナビを購入した。すぐに車に取り付けて起動してみると、無事、正常に動いた。

 一緒に取り付けを手伝ってくれた友人は、助手席でそれを勝手にいじり出す。すると、地図上にいくつかのポイント履歴が浮かび上がり、元の持ち主が僕らと同じ地域に住んでいただろう事が、その行動範囲で分かった。

「これ使ってたの、女だな」と、友人。行った先の履歴を見れば確かにそれは一目瞭然で、レストランやスイーツ専門店の多さがやけに目立った。

「おっ、自宅まで登録しちゃってんじゃん」と、友人は歓喜の声を上げる。見ればさほど遠くもない隣町の一画に、その登録地点はあった。

 行ってみようぜと、そそのかす友人。僕はそれを渋ったが、結局、カーナビを購入した高揚からか、「近くまでなら」と言う条件付きで、既に日が暮れたと言うのに探索の旅へと出てしまった。

 問題の場所の近くには、二十分も掛からずに到着した。山裾らしい勾配で高低差の目立つ、そんな住宅地域。道もやけに曲がりくねっていて、まるで迷路のような路地ばかりだった。

 何度か曲がる場所を間違えたりしながらも、結局僕たちはそのカーナビが示す、“自宅”と言う場所まで辿り着いた。だがそこは完全なる突き当たり。家どころか小屋さえも建たない草原のような空き地で、とても女性が住むだろう場所などでは無かった。しかもUターンを試みるもぬかるみにタイヤを取られてスタック。帰る為の手段を無くし、僕と友人は喧嘩腰な言い合いになってしまった。

 そこを助けてくれたのは近所に住むと言う若い男性で、愛車のジープで僕の車を引っ張ってくれたのだ。

「なんでこんなとこ来たの?」と言う質問に、素直にカーナビに従った事を言う。するとその男性、少し考え込んでから、「多分それ、悪戯なんかじゃないかも」と言う。

 実際に数年前まで、この空き地に住んでいた、「地主」と名乗る女性がいたと言うのだ。但し家屋は建てずに、たまに四駆の車でここに乗り付け、テントを張ってキャンプをする。そんな感じの使い方だったらしい。

「その女性は?」と言う質問に、男性は「亡くなった」と答える。ある晩そこで何が起こったか、テントが燃え、中にいた女性は病院に搬送されるも酷い火傷で息を引き取ったのだと言う。

「なら、その人の車のカーナビがこれ?」と言う質問に、男性は首を傾げる。

「カーナビは付いてなかったと思うし、それに――」火が引火して、車は爆発するようにして全焼したと言う。

 結局、そのカーナビがどこから来たのかは分からない。

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