#471 『深夜の集会所』
結構な深酒をして、自宅マンションへと帰った。
玄関を上がるなり、妻に呼び止められ、「ちょうどいいから一緒に行こう」と誘われた。
「どこに?」と聞けば、「マンションの集会所よ」と言う。
「なんでこんな時間にそんな場所へ?」と尚も問えば、なんだか上手く聞き取れなかったのだが、これから重大な住民会議があるのだと言う。
「一人でも多くの参加数が必要だから」と、私はほとんど無理矢理に連れて行かれた。
一階フロアにある集会所には、結構多くの人が集まっていた。妻はそれなりに顔なじみらしく、あちこちに頭を下げつつ空いている席へと着く。私もその隣に座ったのだが、なにぶん酒の酔いが回り朦朧としていたのだ。とにかく眠くて敵わなかった。
議事長席には、確かにこのマンションの中で何度か顔を見掛けたかなと思い出せる、白髪の老人男性が座っていた。集まった人達は一言もしゃべらず、黙ったまま会議が始まる時間を待っている。
「いつ始まるんだ?」と小声で聞けば、妻は怖い顔をして、「黙って」とばかりに人差し指を唇にあてがう。仕方無しに私は、他の方々と同じようにして、通夜のように黙り込む。
するとまた、じわじわと睡魔がやって来て、私の瞼を閉じさせようとして来る。そうして私が眠りに就く少し前、誰かが集会室へと入って来て、空気ががらりと変わったのを感じ取る。
皆がその人を拍手で迎えた。一応は私も手を合わせる振りをしたが、覚えているのはそこまで。私はそのままその場所で、深い眠りへと落ち込んで行ってしまった。
気が付けば朝だった。しかも昨夜と同様、集会室の中である。だがしかし、そこには私以外の人は誰もおらず、折りたたみ式のパイプ椅子でさえ、私が座っているものを残して片付けられていた。
私は憤慨しながら家へと帰る。そうしてまだ眠っている妻を叩き起こし、なんで俺を置き去りにしたんだと文句を並べた。
すると妻は、その件を謝るどころか、「昨夜はどこに泊まっていたのよ」と怒り気味で言い返して来る。結局昨夜の件は、泥酔した私の不徳であると言う事で落着したのだ。
だがしかし、やけにリアルな夢だったと反芻する。大概、酒の量は加減せねばと反省していると、娘が起き出して来て、「昨日はママとどこ行って来たの?」と聞くのだ。
「どこって……」と、口ごもる。すると娘は、「しかもママだけ帰って来たのはどうして?」と畳み掛けて来る。
やはり私の記憶は合っていた。だがどうやら、妻側の方ではその事実を無かった事にしたいらしい。以降、私がその深夜の集会に呼び出される事は二度と無かった。
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