#472 『山の上の洋館』
秋も深まる頃、男女四人で行き慣れた山へと登った。
顔触れは、僕と彼女。そして僕の友人とその彼女と言う、良く知った面子だった。
予定では、夕刻には山小屋へと到着する筈であった。だがどこでどうルートを間違えたか、途中から道はどんどん狭くなり、無駄にアップダウンを繰り返すようになる。
山の夜は早い。夕刻、十七時を待たずに陽は落ちる。心細いLEDライトの灯りで進んで行くと、木々の間から遠くの光が見えて来る。
「ようやく到着した」と、仲間の安堵する声が聞こえる。そして僕自身も、心底ホッとしたのは事実だった。だが――
「山小屋じゃないね」と、友人が言う。確かにそれは、僕らが見知った宿泊地では無かった。
山の中にぽつんと一軒だけ建つ洋館。それはもう見ただけでおかしいと感じるものだった。
まず、その家から通じる道が無い。同時に電気がここまで通じている訳も無い。だがその洋館の窓からはちらちらと灯りが洩れている。
友人が玄関のドアをノックする。だが、いくら待っても応えは無い。
「玄関は開いている」と、友人は言う。ドアを開け、「どなたかいらっしゃいませんか?」と呼び掛けるも、やはり誰も出て来ない。
「灯りは点いていたけどね」と、もう一度外に出て確認するも、不思議と窓からの灯りは消えている。
どうしようか。勝手に上がっちゃおうかと話し合っていると、二階の方で人の歩き回る足音が聞こえて来る。やはり誰かいる――と、またしても声を掛けるが、静寂が辺りを包むだけ。
「無人だよ、ここ」と、友人は中へと入って行く。一応は皆もそれに釣られて中に踏み込みはしたが、やはり二階からの足音は止まず、むしろ話し声までもが微かに耳へと届いて来る。
「やっぱり誰かいるよ」と、彼女が言う。全員で二階を見に行こうと言う案も出たのだが、正直色んな意味で怖いのだ。
結局、そこで一夜を過ごすぐらいならば野宿の方がマシだと決まり、外へと出る。僕らはそのお屋敷が見える程度の距離の林の中で直接に寝袋を敷き、寝る事となった。
そうして僕が眠りに落ちる直前、あの屋敷の二階の窓に、人の姿が見えたような気がした。
だが、次の瞬間にはもう朝で、驚いた事に昨夜まであった例の洋館は跡形もなく消え去っている。
僕は皆を起こし、あの家のあった場所まで行ってみた。だがその場所は全くなんの変哲も無い草むらで、家が建っていたであろう形跡どころか、岩と木々ばかりで平地ですらなかったのである。
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