#701 『出て来ない死体』

 昭和四十年代頃の話だそうである。

 とある地区の公民館が老朽化の為に取り壊される事になった。

 それと同時に、その町で建設会社を営む会社社長が、警察署に出頭して来た。

「もう逃げられないと悟ったので」と説明するが、聞いても良く内容が掴めない。

 調べに当たった警察官は長い時間を掛けてその話を聞いたそうなのだが、まとめるとこう言う事らしい。

 会社を始めるに当たって、多額の出資をしてくれた共同経営者がいた。

 だがその人物と折り合いが悪く、次第に険悪な仲になってしまった。

 そこで社長はその人物を殺害し、その当時に建設途中であった地区の公民館の壁の一部にそいつを塗り込めて死体を隠した――と言う事らしい。

 そうしてその社長は容疑者として身柄を拘束されたのだが、結局、取り壊された公民館からは人間どころか猫の遺体すらも発見出来なかった。

 ただ、その社長が「ここだ」と示した壁には確かに人が一人分埋まる程度の空洞があったらしい。

 結局社長は、虚言と言う事で釈放されたらしく、書類上では共同経営者の存在も確認出来なかったと言う。

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