#63 『柿の木』
裏庭に、古い柿の木がある。私はいつも縁側に腰掛け、その柿の木を眺めていた。
柿の木の枝の一本が、昼夜問わず何故かいつも揺れ動いている。もちろん風や何かで動いている訳ではない。ただその枝だけが、まるで手招きでもしているかのようにゆっくりと揺れているのだ。
ある日の事、孫が遊びに来た際、ぶら下がってその枝を折ってしまった。孫は盛大に尻餅をついたが、枝が妙な具合にしなったおかげで何の怪我もせずに済んだ。
だが、私の好きだった枝はなくなってしまった。私はそれがとても残念だったが、もしやと思いその枝のあった場所に合わせて、上から紐をぶら下げ、その先端に鳴子(木の板に木片を下げた楽器の一種)を取り付けてみた。
思った通り、紐は以前の枝のように揺れ動いた。同時に微かだが鳴子も音を奏でた。私はその日から、その音を聞きながら眠るのが日課となった。
ある日の事、そんな話を祖母から聞いた。確かに裏庭の木から、鳴子がぶら下げられていた。
恐らくだが、その枝を折ったのは私だ。まだ幼かった頃だが、木にぶら下がって落ちた事を記憶している。どうして祖母が私にだけそんな話をしたのかは分からない。
祖母が亡くなり、遺品整理の為に実家へと帰ると、裏庭にはまだ鳴子がぶら下がっていた。
結構、風の強い日だったと記憶している。私はそこで、微動だにせず止まったままの鳴子を、不思議そうに眺めていた。
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