#62 『ブレーカー』

 築年数が軽く五十年を超える、木造の一軒家を借りた。

 最初は仕事場のつもりで借りたのだが、部屋数も多いし意外にしっかりとしているので、次第に寝泊まりする事も多くなった。

 快適ではあったが困る部分もあった。その中の一つが停電である。

 但し、停電とは言っても電力会社から電気の供給がストップしている訳ではなく、単にブレーカーが落ちると言うだけの事である。だがそれが頻繁に起きる為、良く仕事に差し支えた。

 漏電を疑い、何度か電気屋を呼んで見てもらったのだが、答えはいつも同じで、「配線ミスや漏電の類いではない」だった。

「じゃあ何が原因?」と聞けば、電気屋は困った顔で、「それ以外ですね」と答える。要するに、いつも埒があかないのだ。

 ある日、夜中の作業時にブレーカーが落ちた。ブレーカーの場所は玄関横の天井近く。もう既に慣れたものなので、スマートフォンの灯りだけで移動し、ブレーカーを引き上げる。

 ブンと音がして灯りが戻る。さて作業に戻ろうと玄関を後にした瞬間、またしてもバチンと音がしてブレーカーが落ちた。

 面倒だなぁと、暗闇の中、手探りのみでブレーカーを探り当てる。その瞬間、痛いぐらいの勢いで伸ばした手が振り払われた。

 明らかに、私以外の人の掌の感触である。私は瞬時に、「それ以外ですね」と言う電気屋の言葉を思い出した。

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