#731 『どこにあった?』

 五寸釘にまつわるお話し二夜目。これはとある地方にて火葬場の職員をしている方の体験談である。

 ――とあるご婦人のご遺体が運ばれて来た。

 柩にすがって泣く女の子が三人。どれもそのご婦人の娘さんなのであろう、口々に「お母さん」と叫んでは号泣している。

 ご家族の方々もまた同じで、夫であろう方が涙を堪え、集まって来てくれた親類達に必死でお礼を言っている姿が痛ましく思えた。

 さて、いよいよ柩を炉に入れる瞬間がやって来た。もうその頃には娘さん達の泣き声はほとんど叫び声となっていた。だが――

 一度、炉に火が入ると、急に誰もが静まり返る。そして点火を確認した後、全員が静かに待ち合い室へと向かうのである。

 妙だな、なんだあの変わり様は――と、私は思った。だが驚くのは火葬が済んだ後だった。

 出て来た遺骨は、焼けて炭色になった釘だらけだった。

 それは一体、遺体のどこに隠されていたのか。百本は軽く超えるであろう程の本数の五寸釘。そしてそれを見て家族どころか親類縁者達も何も言わず、亡くなったご婦人を偲んでいるであろう思い出話をしながら、黙々と全員でその遺骨と灰、そして五寸釘を骨壺に納めて行くのである。

 やがて骨も釘も全てがそこに入りきり、全員が引き上げて行った。

 その後私は、床に転がる五寸釘の一本を見付ける。これはどうしたものかと思いつつ拾い上げ、火葬場の横の茂みに投げ入れ、そっと手を合せた。

 以降、その茂みの奥に佇む女性を姿を見たと言う職員が続出する。

 私は未だその時の一件を、誰にも話せないままでいる。

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