#655 『公園のホットドッグ店』

 近所に、大きな市営の公園がある。

 市営であるため入場料を取られるし、夜間は閉門されるのであるが、公園を取り囲む塀はそれほど高くもなく簡単に乗り越えられるので、時折僕は友人達と一緒に不法侵入し、中でスケートボードの練習をしていたりするのだ。

 ある晩の事。夜の十時に公園北側の広場に集合と約束し、僕と友人のUは、少し早めの九時半を目指して乗り込んだ。

 そしてそこで不思議なものを見た。ほとんどの街灯や照明の類が消えた公園の中で、ぽかんと浮き上がったかのように灯る屋台の明かり。近付けばそれは車両を改造した移動販売車で、その室内の明かりが暗闇の中で佇んで見えるのだ。

 のぼりが見えた。ホットドッグと書いてある。どうやらまだこの時間まで営業をしているらしい、その店頭には見本のようにして並べられているホットドッグが数本、置かれてあった。

「なんだこれ?」と、友人は言う。

 もしかして閉園に間に合わずここに取り残されてしまったのか。それとも翌日も販売をする為、ここで夜を明かすのか。それにしても誰もいない公園の中で、営業している事の方がおかしい。

 だが、人の姿は無い。車の中を見ても人の気配は無い。そこで友人はふざけ半分で、「ホットドッグ一つください!」と大声を上げると、少し間を空けた後、「はぁい」と、暗闇のどこからか声が聞こえた。

 慌てて僕と友人はそこを後にし、これから来るであろう他の友人の事など構わず、家へと逃げ帰った。

 翌日、想定通り他の友人達から文句を言われた。そこで僕らは例の移動販売車の事を話したのだが、そんな店などどこにも無かったと言い返された。

 それから少しして、その公園内にての屋台や移動販売は全て禁止となる張り紙が出された。

 例の事が関係しているのかは全く分からない。

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