#656 『足りないタイル』
隣の町に廃屋の一軒家があると聞き、僕とGとFの三人で、夜を待ってそこに忍び込む事に決めた。
夜の十一時。家の前に集合し、玄関へと向かう。玄関は開かなかったのだが、ぐるりと一周すると割れた窓があり、そこから侵入する事が出来た。
中は先住者の荷物がほとんどそのまま残されており、そこがやけに不気味であった。
さて、一通り見回ってそろそろ帰ろうかと言う話になった頃、突然友人のFの姿が見えなくなった。
僕とGとで探し回ると、Fは浴室の中にいた。
しゃがみこみ、浴槽に背を向けて壁の一部を眺めている。
「どうした」と聞けば、Fは壁の一部を指差し、「タイルが剥がれている」と言うのだ。
確かに彼が示す場所にだけ、タイルが無い。だがただそれだけだ。Fがその事に対し何を執着しているのか、「帰ろう」と言っても、「タイルが無い、タイルが無い」とうわごとのように繰り返し、動かないのである。
Fは半ば引き摺るようにして連れ帰った。だがその翌日、Fの家族から連絡が来て、Fが夜になっても帰らないと聞いた。
僕は察する事があり、すぐにGと連絡を取って例の家へと向かう。するとやはりFはその家の浴室にいた。前夜と同じくその場にしゃがみ込み、「タイルが無いんだよ」と呟いていたのである。
Fを連れ帰り、Fの家の両親に先日の事を正直に話すと、「それって、○○町の家じゃない?」と聞かれたのだ。
なんでもFの家族は昔その町に住んでいた事があるらしく、それは元の家の事ではないかと言うのである。
後日、僕はFの両親とその家へと向かった。だがそこは、Fが昔住んでいた家ではなかった。
「知り合いの家でも無いのですか?」と聞けば、「知らないねぇ」と、両親は言う。
とりあえず僕は応急処置として、その浴室で市販のタイルを貼り付けてみる事にした。
それっきり、Fの奇行は止まったと言う。
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