#657 『77.4MHz』
仲間内で妙な遊びが流行った。それは元病院であった廃屋内でラジオを鳴らし、幽霊の声を拾うと言う悪趣味な遊び。
まず一人でその廃屋に忍び込み、地下へと潜ってラジオを点ける。そして周波数は“77.4MHz”に合せる。するとそこで幽霊の声が聞こえて来るのだと言う。
「聞こえた」と言う人は続出した。だが僕は密かに「馬鹿馬鹿しい」と思っていた。
実はその77.4MHzと言う周波数、合せれば微かにどこかのチャンネルの声が聞こえるのである。そして地下でそれを聞けば更に音声は不鮮明となり、ひとりぼっちでそれを聞けば心細さから幽霊の声にも聞こえるのだろうと言うのが僕の推測だった。
だが、内心では馬鹿馬鹿しいとは思っていても、そんな下衆な遊びには否応にも付き合わされるのだ。ある晩、当然のようにその遊びに誘われ、仕方無く僕自身もそれに参加した。
その遊びを仕切っているのは、二つ年上の先輩達であった。一人ずつが強制的に懐中電灯を持たされ、地下へと行ってラジオを聞いて帰って来るのである。
向かった人はスマホで自らを自撮りし、それを証拠として先輩に見せなければならない。かなり面倒臭い遊びであった。
先に向かった何人かは、「聞こえた」とか、「めっちゃ怖かった」とか言いながら帰って来る。
やがて僕の番が来て、同じようにスマホで録画をしながら地下へと向かう。
言われた通りの場所にラジオが置いてあった。僕はそれを操作し、電源を入れる。
それはかなり年代物のラジオで、周波数はダイヤルで操作すると言うもの。僕は懸命に声を拾えそうな辺りで調整し、探っていた。すると遠くから僕を呼ぶ声が聞こえて来て、何事かと思って顔を上げれば、「早く戻って来い」と、先輩達が焦っているのである。
訳も分からずラジオを回収し、地上へと戻った。するとそこで待機していた仲間達も、半ばパニックになり掛けていた。
ろくな説明もされず、その日は家に帰された。後でその時の出来事を聞いて、僕もまた全員が粟立った。
戻って来た仲間の動画を先輩達が確認していた所、そこに妙な共通性を見付けたのだと言う。
それは誰もが、周波数を合せると言う行為をしていた事。
周波数は最初から77.4MHzに合っているのだから、ラジオ自体は電源を入れるだけで良い筈。だが何故かどの人も、周波数を合せる行為をしているのだ。
確かにその行動は僕もした。ダイヤルは完全に他の周波数になっていたせいだ。
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