#743 『怪談大会』
僕が社会人になってからの事だ。友人の伝手で、百物語の会と言うものを知った。
近い内にその催しがあるから参加しないかと誘われ、僕は二つ返事で行くと答えた。
さて、その当日の夕刻。都内にある某オフィスビルの五階でそれは行われた。その日の企画は、参加者が“一人一話”で語り合うと言うもの。僕は百物語を期待したのだが、慣れていない者が一人でも参加していると一晩で百話はこなせないのだと言う。
その晩集まったのは総勢二十人。会が始まり聞き耳をそばだててみるが、正直どの人もありきたりで、どこかで聞いたような話しかしていない。
やがて僕の順番が回って来た。そして僕が語ったのは二年前に僕自身が体験した話だった。
それは今もまだ付き合っている彼女、葵と一緒に旅行へと出掛けた時の出来事。夜道、曲がりくねった峠道を車で走っていると、突然目の前に少女が現われた。その少女はこちらに背を向けて立っているのだが、クラクションを鳴らしても退く気配が無い。
そこで葵が、「ちょっと声掛けて来る」と車を出たのだが――
「それ言っちゃいけない話!」と、突然その語りを遮られる。見れば全員が僕の顔を睨んでいる。
どうしたんだと思いうろたえていると、また再び、「それ言っちゃいけない話だよ」と、その場にいる全員が声を揃えてそう言うのだ。
「え、何で……」
言うと今度はその会に誘ってくれた友人までもが、「駄目だって、それ」と、かなり怒り気味な声でたしなめる。怖くなった僕は、「失礼します」とその会を辞してその場を後にした。
終電には間に合った。帰りの電車で、一体今のは何がまずかったのだろうと思い返してみるが、全く理由が分からない。
次に、この話を葵本人に聞いてもらおうと彼女に連絡を取ってみる――が、返事は無い。既読にもならない。仕方無くその晩は不愉快なまま家へと帰った。
後日、会に誘ってくれた友人に連絡をし、昨夜のは一体何が駄目だったのか聞いてみると、「何それ知らない」と、とぼけられる。しかも、「なんでお前、勝手に帰っちゃってんだよ」と僕を叱るのだ。
どうにも話が噛み合わず、「この話、しただろう?」と、昨夜語った話をすれば――
「それ言っちゃいけないやつ」と、またしても同じ事を言われ、会話はそこで途切れた。
葵とは何故かそれっきり連絡が付かず、自然消滅となったまま逢っていない。
風の噂では、最近他の男と付き合い始めたらしいと聞く。
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