#264 『真冬の葬列』

 前出のものとはまた違う人の話である。

 私がまだ中学生だった頃の事だ。大晦日、もう間もなく紅白歌合戦も終盤と言う時刻。トイレに立ったついでに深くなりつつある雪を見ようと廊下の窓から外を覗けば、表の通りを大勢の人が通り過ぎて行く姿が見えた。

 シャン――と、乾いた音が聞こえた。すぐに気付いた。あれは錫杖の音だと。

 最初はお祭りの行列か何かかと思ったのだ。今時では珍しい提灯をぶら下げ、錫杖を打ち鳴らしながら一歩ずつ踏みしめながら進むのを見て、いかにもお祭り然とした感じがあったからだ。

 だが、違った。良く良く見れば誰もが喪服姿で、その葬列の真ん中辺りには骨壺を持つ女性の姿も見受けられる。

 こんな大晦日の、しかも年が明ける頃に葬儀なのかと疑問には思った。だが私が最も畏怖したのは、皆の顔を隠している白い布切れだ。それはまるで荼毘に付す者が顔に掛けられる布のようで、誰もが顔全体を覆うようにして大きな布を頭からぶら下げているのだ。

 気持ち悪い――と思いながら、居間へと戻った。それから間もなくして年が明けた。

 さぁ初詣だと父が言い、毎年恒例の神社へと出向く事になった。だがそこで私は思い出す。さっきの葬列はこの村の奥にある神社へと向かっていたのではないかと。

 そこで村人全員が神社へと詰めかけると、今から葬儀の方々に申し訳ないのではと思い、身支度を整えている家族に先程見た葬列の事を話したのだ。

 すると家族全員が血相を変え、父はすぐにどこかへと電話する。祖母は私の肩を掴んで、見た事をつぶさに話せと言う。

 しばらくして神社の宮司さんが家までやって来て、真夜中だと言うのに私に向けて何かを唱え始めたのだ。

「もう大丈夫でしょう」と、一時間ほどしてそう言われた。

 翌朝、家族にその時の事を聞けば、「しゃべっちゃいけない」と皆から強くたしなめられた。

 それから十数年経ち、その当時の事を改めて皆へと聞いてみれば、誰もが渋い顔をして「宮司さんに聞いて来い」と言う。仕方なくその通りに神社へと出向けば、宮司さんはにこやかな顔をして「あれはこの周辺に今尚留まる土着信仰の神です」と言う。

 神なら別に怖いものではないでしょうと私が聞けば、「但し、死に神ですけどね」と返された。

 あの晩、私がその事を誰にももらさず黙っていたならば、翌日の朝は迎えられなかっただろうとさえ言われてしまった。

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