#618 『風の強い夜』
私が小学生だった頃の話だ。
お風呂上がりの頃からぴゅうぴゅうと聞こえていた風の音が、部屋へと入って寝る頃にはまるで笛の音のような甲高いものに変わっていた。
布団に入り電気を消す。するとそれを待ち構えていたかのように風が部屋の窓を揺らし、家全体を掠めて吹き抜けているのだろう家鳴りのような音が部屋中から聞こえた。
窓の音が、まるで外から人の手が叩いているような音に感じる。さすがに怖くなった私は、すかさず枕一つを手にして隣の姉の部屋のドアをノックする。
「一緒に寝たい」と一つ年上の姉に言えば、姉もまた安心したかのように「いいよ」と、隣を空けてくれた。
だが、風の音は更に強まるばかり。私と姉は寄り添って寝ているものの、「窓辺が怖い」と言う理由で、懸命にベッドを引き摺り窓から遠ざかって寝る事にした。
翌朝、寝坊した私達は母に叩き起こされた。
どうして二人で寝ているのと言う問いに、「風の音が――」と答えたが、母はきょとんとした顔で、「風なんか吹いてなかったでしょう」と言うのだ。
いやそんな筈は無いと、私と姉とでその晩の事を強く主張すると、それを聞いた父が、「もしかして」と家を飛び出した。
続いて母が何かを悟ったか、「あんた達はすぐ学校に」と私達を追い出し、慌ただしく何かの準備を始める。
その晩、私と姉は二人きりで留守番をする事となった。
深夜遅くに、喪服姿の両親が帰って来たが、何があったのかは何一つとして語ってはくれなかった。
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