#530 『人形劇団』

 僅かばかりの人数で、人形劇団を運営している。

 演目はいくつかあるのだが、その中でも人気のある芝居に、“少年の空”と言うものがある。

 さてその演目なのだが、この芝居をひらくと必ずと言って良い程に見に来てくれる常連さんがいる。名前そこ知らないが、車椅子に乗る小学生ぐらいの男の子である。

 一体どうしてそんなに同じ芝居ばかり見たがるのかは知らないが、お母さんらしき人に付き添われ、いつも最前列に座るのだ。

 だが、ある時を境にその子はパッタリと姿を見せなくなってしまった。

 さすがに飽きたのだろうと噂していたのだが、それとほぼ同時期から、人形をしまう物置で異変が起きるようになっていた。

 それはいつも決まって、“トム”と名付けられた少年の人形が絡んでいる。

 しまっていた筈の人形が外に出て転がっていたり、全く別の場所で発見されたり等だ。

 おかしな事はまだあって、トムを使わない演目なのに、いつのまにか他の人形と一緒に並んでいたり、出した筈の人形の姿が無く、探すとトムのケースの中に入っていたりと、不可解な現象は数多くあった。

 ある時、“少年の空”の公演で、最前列に車椅子の男の子を連れていたお母さんの姿があった。公演後、帰ろうとしていたお母さんを呼び止め、息子さんはどうしたのかと訊ねてみた。すると――

「亡くなりました」

 それは物置で怪異が起こった時期と重なった。

 帰りの道中、「あの子とトム、なんか似てない?」と、誰かが言い出した。言われてみればなんとなく特徴が似ている。だからこそあの子はいつも、“少年の空”の公演ばかりを狙って来ていたのではないかと、そんな結論に至った。

 以降、物置で怪異がある度に、「あの子が来てたね」と誰もが噂するようになったのだが、ある時一人の団員が、「違うんじゃない?」と反論した。

「来ているのはその子じゃなくて、お母さんの方だと思う」と。

 なんとなくだが、誰もがそれに納得した。

 それ以来、公演の度に最前列に並ぶその女性を、違う目で見るようになってしまった。

 女性は笑う。ただ一心不乱に、トムの人形ばかりを見つめて。

 トムはその後、手厚いお祓いを受ける事となった。だがまだ、怪異は細々と続いている。

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