#641 『うろつく人』

 終電にほど近い深夜の事だ。

 会社の同僚達と飲み歩き、さてそろそろ帰るかと駅へと向かっていると、突然道路に横付けされたパトカーが数台。道路には黄色いテープが張り巡らされ、繁華街の道路が完全封鎖になっている。

 何があったのだろうと近付くと、その道路の一画には青いビニールシートが敷かれている。

 集まった野次馬の噂話から、飛び降り自殺か何かだと言う事が予想される。

 すると隣に立つ同僚の一人が、「あいつ、警察の偉い人か何かなのかな。妙に浮いてるんじゃねぇ?」と、現場の中を指差し俺に聞くのである。

「どれの事だよ」と聞き返せば、「あいつだよ、一人だけ私服のやつ」と同僚。だが彼の言う場所を見ても、それらしき人物は誰も見当たらない。

「分からない、どいつの事だよ」尚も聞けば、「あのジーパンで、白のポロシャツの……」と同僚は言うのだが、どこをどう見てもそんな人物はその中にいないのである。

 あぁこいつ、俺の事を騙そうとしてるな。俺は咄嗟に気が付き、「あぁ、あいつね。何だろうね一人だけ」と適当に相槌を打ったのだが、喧噪の合間を縫って同じく野次馬の一人であろう若い女性が、「ねぇ、マジで見えないの?」と友人達に問い掛ける、そんな声が聞こえて来た。

「警察関係者っぽくないじゃん。なんかあっちこっちをうろうろしていて――」

 聞きながら同僚がその子に、「あの白いポロシャツの男?」と聞けば、その子もまた同僚を指差し、「そう!」と答えるのだ。

 だが何度見てもそんな男性の姿は見当たらない。だが、駆け付けた鑑識らしき人達がそのブルーシートをめくると、そこには地面に横たわるジーンズパンツと白いポロシャツの男性の姿が見えた。

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