#759 『ひょいと出て来る』

 某映像製作に関わる人の話。

 女の子が木の影からひょこっと顔を出すシーンを撮る事になった。

 ロケ地は決まり、スタッフを揃え、現地での撮影がスタートした。

 真っ直ぐに木々が並ぶ場所にて、モデルの女子がスタンバイ。監督の指示の元、その木々の一つから顔を出すだけの簡単な撮影であったのだが――

「ハイ、カットー!」

 監督の声が響く。どうやらNGだったらしい。

「向こうにガキんちょがいて邪魔してる」と言う。映像を見れば確かに、女の子が顔を出すのと同時に、かなり向こうの方で同じタイミングで顔を覗かせる帽子をかぶった少年の姿が映っていたのだ。

 そしてテイクツー。またしてもNG。同じように顔を出す少年が映っている。

「ちょっと行って注意して来い。こっちは撮影許可もらってやってんだから、悪戯が過ぎると撮影費をお前の家に請求するぞってな」

 監督に言われて助手の一人が飛んで行く――が、すぐに「誰もいませんでした」と戻って来る。

 そしてテイクスリー。またしても皆の見ている前で少年が顔を出した。

「お前、向こう言って隠れてろ」と監督は助手に命令し、ちょうど木々に隠れられる辺りで待機させた。

 そしてテイクフォー。スタートの合図と共に、「カット」の声が響き、監督は頭を掻きながら「ここじゃ無理だ」と愚痴った。

 NGとなった映像を見返してみれば、女の子の遙か背後で、帽子をかぶった少年と共に、待機している筈の助手が同時に顔を出していた。

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