#582 『雛人形の首』
偶然にも、人形にまつわる話――しかもその人形の“首”が関係する話が同時に二つ聞けたので、二夜連続で掲載させていただく事にする。
まずはその一夜目。
――我が家は女系家族で、私が子供の頃は三人姉妹と母と祖母の計五人。男性はお父さんが一人きりと言う家族構成だった。
自然、三月のひな祭りには必ずと言って良いほどに雛人形が飾られた。
それは私が小学校の五年の頃の話だ。毎年の恒例行事みたいなもので、私は姉と妹と三人で押し入れから雛人形の箱を取り出し、ひな壇に飾っていた。
だが、とある箱を開けて見れば何故かその箱の中身が空っぽで、何も入っていなかったのだ。
私は姉と妹に、空き箱は分けて置いてよねと意見すれば、二人ともにそんな雑な事はしていないと言う。
そうして人形を飾り終えれば、やはりその中の一体が足りない。母に聞けば足りないのは“三賢女”と呼ばれる有名歌人の一人で、おそらくは小野小町の人形が無くなっているのではないかと言う事だった。
私達は懸命にその一体を探した。空いた箱をもう一度開けて見るが、やはりいない。もしかしたら去年の片付けの際にどこかに無くしてしまったのではないかと言う結論で落ち着き、探すのを諦めた。
それから長い月日が経った。私は大学の入学と共に家を離れ、そしてそのまま就職を果たした。そしてその前後で祖母と父が相次いで他界。数年後、残された母も私の結婚を待たずに鬼籍へと入ってしまった。
ある時、実家を継いだ姉から電話が入った。家を取り壊そうと思っているのだが、少々困った事が起きたと言う話。
すぐに私と妹は実家へと戻った。すると実家の居間のテーブルの上に、昔に紛失した例の小野小町の人形がちょこんと座っていたのだ。
「屋根裏から見付かったの」と姉は言う。なんでも取り壊しの業者に見積もりを依頼した際、それを見付けたのだと言う。
「これ、あなたの部屋の真上にあったのよ」と、姉は私に向かってそう言った。だが私には全く身に覚えが無い。
結局、長い月日を経て人形が元の箱に戻された。実家は無事に取り壊され、今では姉夫婦がそこの新居に落ち着いている。
それから少しして、私は職場の男性との長い交際を経て結婚。そして女の子を出産した。
ある日の事、娘はおもちゃ箱を覗き込みながら、「変なのがある」と、それを取り出して見せた。
それは私にも見覚えがある、例の小野小町の人形の“首”。
私はすぐに姉へと連絡し、雛人形の箱を確認して欲しいと告げた。
果たして――箱の中に人形はいなかった。姉は屋根裏は当然の事、家中の色んな箇所を調べて回ったが、やはりその人形の胴体部分は出て来なかったと言う。
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