#583 『リカちゃん人形の首』
二夜連続で、人形の首にまつわる話を掲載させていただく。
今夜はその二夜目である。
――私には五歳年の離れた妹がいる。
母が仕事で忙しく、ほとんど家にいない生活だった為か、妹はとても私に懐いていた。
最初は私も可愛がっていたのだが、ある程度の年齢になって来ると逆にそれが煩わしい時があり、妹とは半分しか血が繋がっていない事を知ると余計にその存在が疎ましく感じられるようになった。
それでも妹は常にお姉ちゃんお姉ちゃんと私に付いて回り、私の友人達は何故か妹をとても可愛がっていた。そしてそれが更に私の妹嫌いに拍車を掛けた。
妹には宝物が一つあった。それは私のお下がりのリカちゃん人形で、私は特にその人形に愛着は無かったのだが、妹はいつもそれを持ち歩くぐらいには大事にしていたのだ。
ある時、結構大勢の友人達と遊ぶ事になった際にも、妹は付いて来た。
その当時は私ももう中学生で、未だに子供っぽい妹を連れて歩いていると言うだけで恥ずかしく、とても嫌な思いをしていた。
そこで私は一計を案じた。友人達と合流する前に妹を引き離そうと、「お姉ちゃんとゲームをしよう」と持ち掛けたのだ。
内容は簡単。妹のリカちゃん人形を私が隠し、妹がそれを見付けると言う単純な遊び。
だが簡単に見付けられても困る。私はその人形を受け取ると、妹に見えない場所でその首をもぎ取り、胴体と頭を別々の場所に隠した。
胴体は比較的容易な、台所の引き出しの中。そしてその首はなかなか見付けられないよう空いた封筒の中に詰め込み、自分のポケットへと仕舞い込むと、「見付けたらお姉ちゃんの所に来ていいからね」と家を出た。そうしてその首の入った封筒は、家の玄関先にあるポストの中へと放り込んで行ったのだ。
思惑通り、妹は公園に来なかった。これはいい、今後はこの手で妹を遠ざけようと決意し家へと帰れば、妹は想像通りに首の無い人形を抱き締めながら家で留守番をしていた。
それから三日が経った。母が突然私に、「あの子の人形の首、知らない?」と聞いて来た。
そう言えばあれっきり、妹に首を返していない事に気が付いた。私もさすがに悪い事をしたなと思いポストに取りに行くのだが、何故か例の封筒が見当たらない。
尚も首の付いていない人形を抱えている妹に、「首、見付かったの?」と聞くが、「まだ」と答える。
それ、首付いてないけどいいのかよ――と、言い掛けてやめた。無くした私自身が言える事ではないのだ。
結局、それがきっかけで妹とは自然に離れた。妹は一人きりで家に閉じこもり、逆に私は外に出ている時間の方が多くなって行った。
その辺りから私はどんどん素行が悪くなり、中学卒業後は高校に行かず、一回りも年上の男の家に入り浸ったきり家に帰らなくなった。
それから数年が経ち、母からの連絡で妹が亡くなった事を知った。
母が深夜の仕事を終えて家へと帰れば、妹は心臓発作による突然死で、一人きり冷たくなっていたのだと聞いた。
久し振りに家へと帰るかと思っていると、アパートの玄関のドアから「パタン」と音がする。どうやら新聞受けに誰かが“何か”を投函したらしい。
何だろうと思って見に行けば、そこには不自然に丸まった封筒が放り込まれていた。
一瞬で悟った。それはかつて私が意地悪で隠した、リカちゃん人形の首が入った封筒だと。
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