#492 『私の番』

「ねぇ、少し時間ある?」と、同僚の彩美から声を掛けられた。

 彩美と私は同期の入社ではあったが、さほど親しくもない間柄なので、話し掛けられた時には少々びっくりした。

「実はね――」と、語り始めた彩美の話しは、なかなかに気味の悪いものであった。

 彩美は毎日、会社まで自転車で通っている。その通勤途中に、とても妙な家があると言うのだ。

 二階建ての白い家。道路に面した二階側には二つ、一階には一つ、大きな出窓がある。その出窓に、人の姿が見えると言うのだ。

 二階の二つの窓からは、男の子と女の子が一人ずつ。そして一階の窓からはその子の両親らしき二人の姿があると言う。

「それって、幽霊とかの類?」

 聞けば彩美は、「分からないの」と答えながらも、「多分、人だと思うんだけど」と、困った顔をする。

「なら、気にする必要も無くない?」と言うと、「でも――」と彩美は口ごもる。

「それって、時々の話ではないのよ」

「時々じゃないってんなら、毎日って事?」

 聞けば彩美は、「うん」と頷く。

 その日の帰り、私は彩美と一緒にその家の方向へと向かって歩いていた。

「あの角を曲がった所」と。彩美は住宅街の一角を指差した。

 辻を曲がる。少し先の突き当たりに、その家はあった。

 全く、彩美の言う通りだった。二階の窓からは小学生らしき二人の子供の姿。そして一階の窓からはその両親らしき二人の姿があった。

 四人はほぼ同時に腕を上げ、口を大きく開けながら私を指差した。

「なにこれ……」と、私がその場で立ちすくむ。助けを求めようと彩美を見れば、彩美もまた同じ姿勢で私を見つめ、口を大きく開けて指を差していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る