#28~29 『日記』

 三年程前に一時期だけ交際をした女性から、荷物が届いた。

 最初から嫌な予感はしたが、やはり包みを開けて心底後悔をした。それは、その別れた元カノが書き貯めたのであろう、空白の三年間の日記だった。

 それはノート数十冊分もの量だった。日記は僕と別れたその直後から書かれたものらしく、恨みつらみから始まり、ポエムめいた愛をうたう詩や、僕を想定して描いたのだろうか、男性の顔のイラストなどが書き込まれていた。

 時折、文章の中に、“彼を殺して私も死にたい”などと言う記述がちらほらと見付かり、これは狂っていると確信した僕は、その包みの一番下にある最新のものであろう日記を開いた。

 それは一体、いつの間に調べたのであろう僕の住むマンションの内容が事細かく絵で描かれており、現在付き合っているであろう彼女の事らしい記述までもがそこにあった。

 僕は震える手で最後ページをめくる。最新の日記はまさに四日前の日付で、“今から逢いに行きます”と言う一文で締めくくられていた。

 僕は慌てて引っ越しを決意する。とりあえずは今付き合っている彼女の家へと転がり込む事として、この狂った元カノが本気でここに来る事を懸念し、荷造りから掃除までの一切合切を業者に頼む、丸投げプランを選択した。

 引っ越しは滞りなく済んだ。荷物が倍になる事に対しての苦情が彼女から出たものの、一緒に住むと言う事に関しては特に嫌がってはいない様子だった。

 引っ越し業者からも、引っ越し先を聞いて来たり、後を付けて来たりした人はいなかったと言われ、僕は安堵する。

 だがそれもつかの間。引っ越しをして三日後、僕は任意同行にて警察署へと連れて行かれる事となった。なんでも僕が住んでいた部屋の天井裏スペースで、女性の遺体が発見されたかららしい。

 天井裏の遺体の横には、一冊のノートがあった。僕は強制的にそれを読まされた。

 それは間違いなく、元カノが書いたであろう筆跡で、僕が慌てて引っ越し準備をするさまや、引っ越し先についての内容や、彼女の存在についての非難などが書かれていた。

 結局、その女性遺体について僕の容疑は晴れはしたのだが、もっと深刻な事態に陥った。どうやらその天井にあった遺体は元カノのものではなく、全然別の人だったらしい。

 恐らく、元カノは今もどこかで生きている。ちなみに警察の調べて明らかになったのだが、元カノが使っていた名前は完全に偽名だったと言う事だ。

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