#395 『三度目の月曜日』
中学時代の同級生であるFと、偶然ばったり遭遇した。
すぐにそれがFだとは分かったのだが、僅か八年ほど会っていなかっただけなのに、その老け具合と来たら驚く程だったのである。
「お前、めちゃめちゃオッサン化してるなぁ」言うとFは照れ笑いをしながら、「苦労してるから」と返す。
立ち話もなんだからと、近くの居酒屋へと向かった。お互いジョッキを酌み交わしながら近況を報告し合う。俺とFは高校が別だった為に、中学の同窓会を最後にずっと会ってはいなかったのである。
「しかし、えらい老けたなぁ」と茶化しつつ、「どんな苦労してんだよ」と聞けば、Fはぽつりと話し始めた。
「実は俺もう、四十越えてるんだよ」
どう言う事だよと俺は笑う。同じ学年の同い年なのだから、Fは俺と同じ二十五歳の筈。だが確かにその老け具合だけは四十過ぎのオヤジそのものである。
「実は俺、十七の頃に奇妙な体験してさ」
それはとある日曜日の夜の事だと言う。翌日は週の始めの月曜日。またしても行きたくない学校が始まってしまうのである。Fはその現実を嘆き苦しみ、「あぁ、せめて日曜日が三日あればいいのに」と呟きながら寝たのだと言う。
翌朝、枕元の時計の表示が“日曜日”になっていた。これは壊れたなと思いつつテレビを点けると、平日にはやっていない休日の朝の番組。しかもその内容は昨日の朝に見たまんまのものなのだ。
昨日の朝に逆行してしまった。Fは咄嗟にそう思ったそうである。
だが、戻った訳ではないと言う事を、後日知る事になる。Fはまたしても日曜の朝にいた。三日続けての“同じ日曜日”なのだ。
このまま永遠に日曜日を繰り返すのだろうかと不安になっていると、その翌日は月曜日で、しかも日曜日同様、それが三日繰り返されたのだと言う。
「同じ日が、連続で三日続くんだ。月曜日が終われば、火曜日が三日。それが過ぎれば水曜が三日」
「それ本気で言ってるのか?」と聞けば、「だから俺は、他の人よりも三倍の速度で年取ってるんだよ」と、Fは笑う。
「冗談だよ」とFは言い、会計票を手に立ち上がる。「割り勘で行こうや」と俺が言うと、「金持ってねぇんだろ」とFはレジへと向かって行ってしまう。――図星だった。だがどうして彼は、俺が金欠だったのを知っていたのだろう。理由を聞けば、「昨日も同じ事言ってた」とFは笑う。
結局、Fとはそのまま疎遠になり、もう二度と会う事は無かった。
俺が四十を過ぎた辺りの頃だ。友人からの噂で、Fが亡くなったと聞いた。
「早すぎるだろう」と俺が言うと、「なんでも老衰だったって聞いたぞ」と、友人は困った顔をする。その死に顔は、老人そのものだったらしい。
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