#121 『ピジョンブラッド』

 叔母の葬儀の後、形見分けをすると言うので家に呼ばれた。

 子供がいなかったせいか、そこそこには裕福だったらしく、親戚縁者達は金目の物をとばかりに、目の色を変えて物色していた。

 私はその叔母の寝室で、黒い手の形をした台座に載る、三種類の貴金属を見付けた。ネックレスと、指輪と、ブレスレット。どれも金細工らしく、全てに同じ赤い色の天然石が埋め込まれていた。

「ユイちゃん、ちょっと付けてみたらいいじゃない」と、喪主だった叔父が私にそう言った。

「いえ、結構です。こんな高価そうなもの」と一度は遠慮したが、強く勧められて手に取ってみれば、指輪もネックレスもしっくりと私に馴染んだ。

 何故か叔父はそれを私にとプレゼントしてくれた。どう言う訳か他の親戚縁者はその高価そうな貴金属には目もくれず、他のものを漁っているばかりだった。

 嵌め込まれた赤い宝石はピジョンブラッド(鳩の血)と呼ばれる希少価値の高いルビーだったらしく、それだけでも私には勿体ないものだと感じた。

 さて、その貴金属が家にやって来たその夜から、妙な異音と、異変が起こるようになった。

 それはどれも勘違いとか気のせいで片付けられる現象ばかりだったが、それでもなんとなく薄気味が悪い。私はぼんやりと、あの貴金属のせいではないかとさえ疑った。

 ある日、私は会社の先輩に呼び止められる。あんたちょっとヤバいオーラ出てるよとか言われ、家での怪異について相談をした。どうやら先輩は“視える”系の人らしく、心配して私の家まで付いて来てくれる事となった。

「これが原因じゃないかと思うんですが」と、例の貴金属を見せれば、「間違いなくこれだ」と先輩は言う。

「こんなもの持ってたらいずれ衰弱死するよ」と言い、先輩はそれを処理してくれる事になった。

 ちょっとだけ気に入ってたんだけどなぁと思いつつ、三種類の貴金属を先輩に渡せば、「そんなもん要らない」と、予想外な事を言う。代わりに先輩はその台座である黒い手の彫像を手に取ると、「これは早急に処分しなきゃならない」と真剣な表情をした。

「言っとくがこれ、黒く塗って固めた人の手のミイラだぞ」

 どうやら問題は、貴金属の方ではなかったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る