#120 『写真館にて』
風変わりな客が来た事がある。
四人家族で、三十代半ばぐらいだろう父親と母親。そして二人の小さな女の子を連れた、そんな家族だった。
記念写真を撮って欲しいと言うのである。だがその四人の服装を見れば時代錯誤も甚だしく、まるで高度成長期に入った頃の昭和を彷彿とさせる、そんな服装だったのだ。
父親は黒の背広姿で、丸眼鏡で七三分け。奥さんはベージュのワンピースで、古めかしいパーマ頭。子供二人に至っては、おかっぱ頭に白いブラウス、赤いスカートと言ういでたちだった。
何枚かを撮り、会計の段になって、その旦那さんが財布から取り出した紙幣は見た事もないような古めかしい旧札のようだった。私はさすがにそれは使えないと言うと、奥さんの方が現代の普通の紙幣で支払ってくれた。
写真は三日後に取りに来てくださいと告げた。家族はそれを承諾したが、結局受け取りには来てもらえなかった。
しばらくして、その写真は店のショウウインドウに飾る事にした。
ある日、店の前で一枚の写真を食い入るようにして見る二人の老婦人がいた。どうやら例の風変わりな一家の写真を見ているようである。
やがてその老婦人は店内へと入って来て、その写真を売ってくれないかと尋ねて来た。
さすがにこれはプライベートに関わるものだからと断ったが、夫人は少々口ごもりながら、大事な両親の写っている写真だからどうしてもと言う。
結局、婦人の熱意に負けてその写真は渡してしまった。
なんとなくだがその二人の老婦人、例の写真にうつるおかっぱ頭の少女二人に、どことなく似ているような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます