#683 『満員の最終バス』

 ある晩、とても奇妙な体験をした。

 とある病院の前の停留所でバスを待っていると、車の一台も走らない暗い道を、定刻の数分前だと言うのに最終バスがやって来た。

 これじゃあ乗り遅れる客もいるだろうなと思いながら到着を待っていると、停まったバスの中はドアから乗客がこぼれそうなぐらいにすし詰めであったのだ。

 ドアが開く。そのドアの前のステップ部分に立つスーツ姿の男性が、その拍子に転げ落ちそうになっている。

「満員ですが、お乗りになりますか?」

 マイクを通した運転手らしき人の声が聞こえて来る。いや、これ乗らないと帰る手段が無いんだけど――と思いながらも、私は「いえ、遠慮します」と答えていた。

 ほっとした顔で私を見つめる乗客達。やがてバスはドアを閉め、走り去って行く。

 あぁ、どうしようか。諦めて歩いて帰るか。思った所で次のバスがやって来る。今度は逆に、運転手以外の乗客は誰もいない。

 最終の定刻通りにバスは走り出す。

「あの、今ちょっとおかしなバスを見掛けたんですが……」と、その運転手に話し掛けたが、「すいません、聞きたくないです」と返された。

 一体あのバスは、誰を乗せてどこに向かっていたのだろうか。

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