#381 『乗りますか?』
埼玉県W市に、とある廃マンションがある。
特に有名な心霊スポットと言う訳でも無いし、事故物件認定されている場所でも無い。だがそこそこには広くてさほど荒れ果ててもいないので、夜の肝試しには手頃なのだと言う。
とある深夜、俺は友人二人を誘ってその廃マンションの探索に出掛けた。
エントランスを通り、真向かいにあるエレベーターの方へと歩いていた時だ。
「おい、あれ……」と、友人の一人が指を差す。見ればそのエレベーターの上にある階数表示に光が灯っていて、それが四階、三階と、徐々に降りて来ているのだ。
「え、ここってまだ電気来てたの?」と、もう一人の友人が言う。同時に階数表示が一階まで来て停まった。
ドアが開く。さぁっと内側から光が漏れ出し、周囲を明るく照らす。見ればそこには会社員風のスーツ姿の男性が二人と、制服姿の女性が一人乗り込んでいて、僕らの事を困った顔で見つめた後、「五人乗りなのですが、乗りますか?」と聞かれたのだ。
「い、いえ、結構です」と、僕が答える。すると会社員風の男性は何も言わずにボタンを操作し、ドアがするすると閉まった。
同時に、上部の階数表示が消えた。「これ、おかしくねぇ?」と友人が呟き、ドアを押さえて両側に押し開いた。
軋む音と共にドアが開く。内部は当たり前のように吹き抜けの穴ばかりで、今し方そこをエレベーターが上下して行ったであろう形跡は全く無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます