#170 『タイヤ』
僕の家は街の高台にある。それもかなりの上の方だ。おかげで僕は毎日、家に帰る際には軽い登山をしなければならない。
ある日の事、いつもの坂道をだらだらと登りながら帰っていると、前方から何かが転がって来た。それは大きく小さくと跳ねながら、坂道を転げ落ちて行く車のタイヤだった。坂道は前方で大きく右カーブしているのだが、タイヤは上手にガードレールにぶつかり、進路を変えて転がって行く。僕は念のためと、大きくそれを避けた。
タイヤは僕の横をすり抜けて行った後も、何度もバウンドを繰り返しつつ坂道を転げて行く。あぁ、誰かあれにぶつかって怪我しなきゃいいけどと思った。
だが、坂道を上りカーブを曲がっても、タイヤがどこから転げて来たのかがまるで分からない。その先に事故車でもあるのかと思ったのだが、むしろ駐停車している車も無い。ただいつも通りの、静かな住宅街が広がっているばかりだ。
それから数日経って、また再び同じ地点で、転がって行くタイヤに遭遇した。更にそこからまた数日経ち、同じ場面に出くわす。
三度も同じ事が起こった。さすがにこれは事故でもなんでもなく、悪質な悪戯か愉快犯だろうと僕は思う。憤然と、怪しい人影はないかと疑いながら登るも、まるでそんな気配は無い。
更に数日経ち、また同じ場面。だが今度は少々、雰囲気が違っている。右カーブの辺りに大勢の人がいて、その先の方を伺っているのだ。その中で突然、騒ぎが起きた。人々が慌てて道路脇へと避ける。その中を、大きく小さくと跳ねながら、坂道を転げ落ちて行く車のタイヤがあった。
タイヤは上手にガードレールにぶつかり、進路を変えて転がって行く。やがてそのタイヤは僕の横をすり抜け、何度も大きくバウンドを繰り返しながら、どこかの家の庭先に飛び込んで停止した。
カーブの先には、相当な勢いでぶつかったのだろう軽自動車が、丸めた紙くずのようになって家の石垣に直撃していた。おそらくタイヤは、そこから落ちたものだろう。
僕はその事故現場を通り過ぎながら、そんな事故の予告をされたって、事前に理解なんか出来ないよと思った。
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