#317 『俺って今どうなってるの』
某心霊系YouTuberさんのお話し。
――かねてより行きたがっていた、とある曰く付きのトンネルでの撮影を敢行した。
但し、メインはそのトンネルでは無く、その少し手前に建っている廃屋の方である。
かつてその廃屋は老婆が殺害されたと噂されている家らしく、今なおその家の内部では様々な怪奇現象が起こると言う。
その日の夜のスタッフは、僕を入れて三人だけ。レポーター役のKと、カメラマンのJ。そして照明及び監督の僕と言う面子だった、
通行止めのバリケードの前に車を停め、そこからは歩きだった。だが、問題の廃屋はすぐにも見付かり、少々拍子抜けだった事を覚えている。
家の前で少しだけトークの時間を設け、それからはレポーター役のKが一人で侵入と言う手筈だった。
Kは手持ちのスマートフォンで動画を撮影しながら、奥へと入って行く。こちらからは、開けっぱなしの玄関からそのKの背中が見えていた。
Kは何故か脇目も振らずにどんどん真っ直ぐに廊下を進んで行き、突き当たりのドアを開けて部屋の窓から外を覗く。そうして、どう言う訳かKはそこから動かなくなったのだ。
突然、カメラマンのJが僕の脇腹を突いた。「どうした?」と振り向けば、「あれ、あれ」と、上を指さす。見上げればその廃屋の二階の窓からこちらを見下ろす人の影。咄嗟に「出たか」と照明を当てれば、何故かその窓に立っているのはスマートフォンと懐中電灯を持つKの姿だったのだ。
どう言う事だろう? Kは確かに玄関より真っ直ぐに廊下を進み、突き当たりの部屋から窓の外を覗いていた筈。しかも照明をそちらに当てれば、今以てKはその部屋で外を見ているその後ろ姿が確認出来る。だがその肝心のKは、二階の窓からこちらを向いて、僕達を見下ろしているのである。
「なぁ、俺って今どうなってるの?」と、二階の窓からKが聞く。僕は咄嗟に、「早く戻って来い」と返したのだが、Kは「それは無理」と言うのだ。
「どうして?」尚も聞けば、「なんか俺、もうお前らとは違う場所にいる気がする」との事。
Jは僕にカメラを預け、「照明当てておいて」と、玄関から猛ダッシュしてKを引き摺り出して来た。
一応、事なきを得たのだが、問題はそこに映っていた映像の方である。
玄関より突き当たりの部屋で、Kの姿が確認出来る映像は残っているのだが、何故か二階の部屋から覗くKの姿だけは、映像として映ってはいないのだ。
問題はもう一つあった。「俺って今どうなってる?」と言うKの声は入っているものの、それは何故かカメラの真横で話しているかのように近く、距離的に有り得ない事なのだ。
映像は未だ残っているものの、客観的に“やらせ”としか見えないが為に、お蔵入りとなっている。
後日、彼らが日中に同じ場所を訪れた際、その廃屋は二階など無く、しかも中に入れる余裕もない程に朽ちて倒壊していた。
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