#123 『また遊ぼうね』

 大学で、廃墟探訪のサークルに属している。

 ある日、少々遠出して栃木県にある洋館の廃墟を探索しに行く事となった。メンバーは僕を含めて計五人。その中には僕がちょっとだけ苦手なケイツ(本名ではない)と言う女子がいた。ピンクのショートカットで、服装は露出気味。見える肌には読めない文字ばかりで構成されたタトゥーがあちこちに掘られていると言う、そんな感じの女子だ。

 現地に無事到着したのは良いが、移動に計四時間弱。帰りの時間を考えたら、その廃墟は僅か一時間ほどしか探索出来ない計算だった。僕達は三班に分かれて、各部屋を覗いて写真を撮りまくった。もしかしたらかつてはその部屋には女の子でもいたのだろうかと思わせるような、子供部屋らしき場所もあった。

 探索を終えて帰路に着く。藪の道を抜け、人の往来のある場所まで出た時に、ようやくその事に気付いた。ケイツが、ワンピースを着た女の子を象った、見慣れないぬいぐるみを片手にぶら下げているのだ。

「おい、なんだそりゃ」先輩が聞く。するとケイツは悪びれもせずに、「拾った」と答えた。

「どこで?」「あの屋敷の中だよ」それを聞いてその場の全員が、戻して来いと言う。だがケイツは頑なに、「嫌だ」と言い張る。理由は、この人形はずっとあの寂しい場所に一人きりだった事。そして私と一緒に行きたいと思っている事などを挙げる。

 結局、「やっぱコイツ変だ」と言う結論で、その件は不問になった。帰り道、「取り憑かれなきゃいいけどね」等と陰口を叩いたりしたのだが、結局それは現実となった。

 翌日から、ケイツはどんどん変わって行った。まず、髪が黒くなった。カラーコンタクトもやめて、地味な眼鏡になった。服装は今までとはまるで逆で、くるぶしまで隠れるスカートに、シックな感じの長袖を好むようになった。彼女自身の性格もなんだか違って来た様子で、とても社交的で、良く笑うようになった。それを見たサークルの仲間は、「逆に取り憑かれて良かったんじゃない?」とまで言うぐらいだった。

 ある日、ケイツは大学を中退した。理由は知らない。

 たまたまサークルの先輩と食事に行こうと言う話で駅前を歩いていた時、偶然にもケイツと再会した。何故か彼女は子供連れで、その胸には五歳ほどの可愛い白人の女の子が抱っこされている。

「君の子?」と先輩が聞くと、「そうだよ」とケイツは言う。そして、「逢った事あるじゃん」とまで言うのだ。

 ケイツはその子を抱きかかえながら、「ホラ、お兄ちゃん達にバイバイして」と笑った。

 するとその子は小さな手を上げ、「バイバイ、また遊ぼうね」と、僕達に向かって同じように笑ったのだ。

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