#622 『ストーキング』
二夜に渡ってお送りした、生花店を営むHさんのお話し。最終夜。
――平日の昼間の事だ。店で品出しをしていると、向こうの作業机で娘がブーケを作っている。どうやら男性客が花束を頼んだらしい、なにやらやけに話が弾んでいるのが遠くからでも聞こえる。
仕事が一段落してレジまで戻れば、丁度ブーケが出来上がった所らしく、それを男性客に手渡している。――と、その場面を見て私は目を疑う。その男性客の背後に、腹部を鮮血で染めた女性の姿があるではないか。
最近になって私は、“そう言う類”が見えてしまうと言う自身の能力に気付いていた。あぁ、これはまた人じゃないものだと感じ、その男性客の様子をずっと伺う。
少々神経質そうな、良く喋る男だった。男は精算を済ませて店から出て行くのだが、「また来ます」と、娘に向かって笑顔で手を振る姿に、違和感を覚えた。
「あの人、これから彼女にプロポーズするんだって」と、娘。
プロポーズ? 何故かその言葉にも違和感があった。取り越し苦労ならいいなと思いながら二日ほど経ったある日、店に数人の私服警官がやって来た。丁度娘が休みの日の事であった。
「この方、ここに来ませんでしたか?」言われて見せられた写真には、私が気になっていた例の男性の姿があった。
男はしつこく付きまとっていたとある女性を待ち伏せし、刃物で切り付けた疑いがあると言う。それがちょうど二日前の午後の事だったらしい。男は行方をくらませたが、落として行ったブーケを見て、警察はそれを頼りに生花店を回っているとの事だった。
「来ましたよ」と私は答え、その当日の店内の様子が映っているであろう防犯カメラの映像を、警察に提出した。
そして私は自身の懸念を警察に話した。もしかしたら今度はウチの娘が狙われるかも知れないと。
当然、「何故そう思う?」と問い詰められる。仕方無しに私は、“霊が見える”と白状し、例の男の背後に見えた女性の姿の事を話した上で、帰り際の男の言動について違和感があった事を伝える。もちろん警察は、それを鼻で笑った。
さてその翌日、例の男は店に来た。気付けば丁度、男はブーケを持って店を出ようとしている所だった。
「前回駄目だったから、もう一回プロポーズするんだって」と、娘は笑う。
私はすぐに警察に連絡をする。そしてその日の内に、男は身柄を拘束された。それは一体どこへと向かっていたのだろう、拘束されたのは私の家のすぐ傍だった。
後日、警察から店の監視カメラの映像が入ったデータを返される。そして私はその際に、深いお礼を言われたのだ。
どう言う事だろうと、その日の夜に渡した映像を見返した。
男の映る映像には、その背後に佇む女性の姿が映っていた。
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