#681 『血を溢すな』
高知県在住のHさんと言う方のお話し。
――我が家の敷地に、高い塀で囲まれた一角がある。
決してその中に入れない訳ではないのだが、入っても何も無く、ただ他の地面よりも約二メートル程窪んで落ち込んでいるだけの場所なのである。
祖父が言うには、昔はそこに家が建っていたそうだ。しかもその家、女人禁制な上に仏間一つが存在しているだけで、他の部屋は全て空き室な上、便所も風呂も台所さえも存在していなかったらしい。
祖父はその当時はまだ幼く、祖父にとっての祖父に連れられて何度かその家に踏み入った事があると言う。
祖父の祖父は仏間で線香を上げ、長い時間祈った後、「この家の中では絶対に一滴の血も溢すな」と、強い口調でそう言ったという。
結局その祖父が亡くなって以来、誰もその家には足を踏み入れなくなったらしく、やがて老朽化して倒壊し、あらためて解体作業に入るまでは長年そのままであった。
さて、とうとう取り壊しとなったある日、解体屋が作業をしていると突然「ドーン!」と言う地鳴りと共に、今まであった瓦礫が何もかも無くなった。
いや、実際は無くなった訳ではない。そのままその地面が地下へと落ち込み、沈んだだけであった。
すぐに救急車と救急隊が呼ばれ、瓦礫の下敷きとなった解体作業員の救出となった。だが幸いにも死亡者はおらず、全員軽傷だけで済んだらしい。
そしてその中の一人が、こんな事を言っていたと言う。
「作業中に釘踏み抜いて、怪我しちまったんだ」
同時に地面が陥没した。恐らくはその地に、血が溢れたのだろうと祖父は語った。
以降、そこは更地のままであったのだが、ある晩、「ドーン!」と言う轟音が響き渡った。
見に行けばその更地がまたしても二メートル程陥没しており、どこから迷い込んだのか、野犬の死骸が一つ、そこに転がっていたらしい。
それから祖父は、そこに人が立ち入らぬよう柵で囲ったらしいのだが――
「何が潰れて陥没するのか、何で血が駄目なのかまるでわかんねぇ」と笑う。
いや笑い事じゃないだろうと、その孫であるH氏は語ってくれた。
尚、その土地のお祓いを何度かお願いした事があったらしいのだが、どれも全て断られたと聞く。
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