#98 『飛蚊症』

 顔の周囲で虫が飛ぶ。手で払ったり、目で追ったりするが、いつも手応えは感じない。

 妻に、「それは飛蚊症でしょう」と言われ、眼科へと向かった。だが渡されたのは錠剤と目薬程度。これで本当に治るのかと疑問はあったが、予感した通りまるで快方には向かわない。

 あるとき、古い友人の勧めで漢方を試す事にした。教わった通りに店へと向かえば、そこの店長なのかどうかは知らないが、やけに恰幅の良い中年の中国人男性が私の顔を見るなり、「お困りですね」と笑う。

「何に困っているのか分かるの?」と私が聞けば、「これでしょう」と、唐突に私の目の前に掌を広げ、何かを掴む仕草で手を引いた。

 驚く事にその一瞬で、飛蚊症は治った。男性は大きな空き瓶に何かを放り込む仕草をしていたが、私には何を入れたのかがまるで見えない。

「今の、何だったんですか?」

「さぁ、なんでしょうね」

 満足の行く回答はもらえそうになかったので、私はそこで勧められた、煎じ薬だけを購入し、家路へと付いた。

 飛蚊症は治ったものの、今度は煎じ薬を飲むたびに、奇妙なものが視界の隅に入って来るようになった。なのですぐにその薬は捨てた。

 今はもう何もなく、身体も健康そのものである。

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