#407 『呼ばれてましたよ』
深夜近くの終バス。乗客は私以外に誰もいない。
私の住む家はかなり辺鄙な場所で、遅くなると極端に電車の本数が少なくなる。したがって、こうして終バスを利用した方が若干早く家に着くのだ。
突然の急ブレーキ。続いて身体で感じる衝撃。“何か”を撥ねたのは間違いなかった。
「あぁ、やっちまったなぁ」と、運転手さんはさほど慌てた感じでもなくバスのドアを開けて降りて行く。途端、冷たい秋の風が車内に流れ込んで来る。
しばらく待ったが、運転手さんはなかなか戻って来ない。どうしたものかと思っていると、またしても「どん!」と、バスが揺れる程の衝撃が来た。
私は慌ててバスを降りる。そうして、「運転手さん!」と叫んで、ぐるりとその前方から後方に向かって歩いて行くと――
プシュッ! 音がして、バスのドアが閉まる。そうしてそのバスは私を置いて走り出してしまうのだ。
僅か一瞬の事だった。気が付けば私は全く見知らぬ道の端におり、ただ街灯が一つ、私を照らすだけ。見ればその道は驚くほどに狭く、乗用車一台がかろうじて走れる程度の曲がりくねった山道で、先程の大型のバスが走れる程度のものではなかったのだ。
途端、なんとも言えない恐怖がじわじわと込み上げて来る。私は懸命に、バスが走り去った方向に向けて叫ぶが、戻って来る様子はまるで無い。
「大丈夫ですか。起きてください」と、私は身体を揺り動かされる。気が付けば私は、先程のバスの中だった。運転手さんがバスを停め、激しくうなされている私を心配して起こしてくれたらしい。
「どんな夢を見たのですか」
聞かれて私はかいつまんでその夢の説明をすると、「どこにも降りずに終点まで来てください」と、その運転手さんに真剣な顔でそう言われたのだ。
終点を過ぎ、その先の折り返しの道でUターンをすると、バスはその近くのターミナルへと向かった。そして運転手さんは、「私の車で送ります」と言うのである。
私服に着替えたその運転手さんは私の家の方向へと車を走らせながら、「年に数回、そんな夢を見る方が出るのです」と、語る。
「あなたきっと、呼ばれてましたよ」
しかし、何に呼ばれているのかまでは教えてくれないのである。
だがおそらく、私が夢に見たあの細い道は、あの路線の近くのどこかに存在しているのだろうと言う事だけは分かった。
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