#483 『未来テレビ』
これも、“ゆーろ”さんの体験談である。
――私がまだ小学校の頃の事だ。両親と一緒に、一泊の旅行へと出掛けた。
さんざ山登りや川遊びをした後、宿へと戻った。
宿は特に怖いとか何かいるとか、そんな雰囲気は感じられなかったのだが、その日の晩におかしな事が起こった。
真夜中、ふと妙なまぶしさで目が覚める。室内は暗いのだが、どこからかやけに明るい光が射し込めているのだ。
見ればそれはテレビだった。何故かテレビからは音が出ておらず、無音のままで何かの番組が放映されていた。
地方局の番組らしく、まるで観た事の無い番組が流れていた。果たしてそれはニュースなのか、それとも何かのドキュメンタリー番組か。延々と事件や事故についての映像らしきものが映し出されていた。
何故か、私の両隣に寝ていた筈の両親の姿が無い。どころか最初から寝ていた形跡すらも無い。布団はまるで乱れもせず、敷かれたままの綺麗な形だったからだ。
さすがにおかしいと思った。寝た時は三人一緒だった筈。一体どこに行ったのかと思い周りを見回すのだが、どこにも姿は見当たらない。どころか――
「ここ、どこ?」と、思わず呟いた。寝る直前までいた部屋は、せいぜい六畳程度の大きさだった筈なのに、何故か今寝ている部屋は宴会場かと思える程に広い、畳敷きの部屋だった。
正直、テレビの明かり程度ではその部屋の果てが見えない。目を凝らしても、延々と広がる暗闇にしか確認出来ないのである。
さすがに子供の私でも、とんでもない場所に迷い込んでしまったと言う自覚はあった。
だが、戻りようが無い。私は仕方無くぼんやりとそのテレビ番組を眺めて過ごしたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしく、気が付けば寝る前にいた部屋の中で目が覚めた。
もちろん、両隣には両親の姿もあったのである。
それから少しして、当時売れっ子だった男性シンガーの曲を友達の家で聴き、「この人って先日亡くなっちゃった人だよね?」と聞いて、「縁起でもない!」と怒られた。
あれ、おかしいな。確かにこの人が亡くなったと言う映像を観たのにと思ったのだが。
それから数年経ち、その男性シンガーの訃報が流れた。薬物使用による異常な死の模様が放映されたのである。
私はその瞬間、思い出した。この映像を確かに昔、観た記憶があると。
そしてそれを観たのは、なんとなくだがあの時の旅館のテレビの番組だったような気がしてならなかったのだ。
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