#176 『もう一人の誰か』
とあるコミュニティのシンポジウムに出席する為に、新幹線へと乗って現地へと向かった。
とある駅で停車すると、人が幾人か乗り込んで来るのが見えた。するとその中の一人の女性が私の席の前まで来て、「そこ、私の席のようなのですが」と聞いて来る。私はそのチケットを確認すると、確かにその指定番号は私の横の空席を示していた。
「どうぞ」と立って、奥の席を勧める。だがその女性は困った顔をして首を傾げ、立ち去って行ってしまったのだ。
しばらくして目的地の駅へと到着する。すると先程の女性はずっと車両の前の方で立っていたのか、同じ駅で降りた。何故か私の方を向き、軽蔑したような目をしていた。
会場でもおかしな事が起きた。受け付けを済ました後、中へと入ろうとして呼び止められた。「お連れ様のお名前もお願いします」と。
会場内では更におかしな事に、私の発言の番が来る度、「お一人で発言をお願いします」と、何度も言われた。もちろんマイクに向かっているのは私一人だ。
ホテルではフロントにて、「お一人様での宿泊としか聞いておりませんでしたが」と言われる。「私一人ですが」と返答しても、フロントの男性は「じゃああれは誰だよ」と言ったような目つきで少し離れた空間に視線をやる。そこを無視して一人分の宿泊料金を払い、鍵を受け取ると、フロントマンが後で部屋まで押し掛け中を確認すると言った一幕さえあった。
翌朝、ファミレスでは向かいの席にまでお冷やを置かれた。さすがにこれはおかしいと私は思い始めた。だがどうこうする手段も方法も無い。とりあえず帰りの電車まで時間はあったので、宿泊先にほど近い場所にあるお寺へと向かった。
すると何故か寺の門の前にそこの住職だろう人が立っていて、「誰か来るなとは思ってました」らしき事を言われた。
住職は黙って中へと案内してくれて、しばらく中を拝観して行きなさいと言う。私はその通りにする事にして、電車の時間ギリギリまでそこにいた。
お祓いとかは何も無かった。ただ帰り際、もう一度お礼を言おうと振り返ると、門の向こうに住職と“もう一人の誰か”がそこに立ち、私に向かって手を振っているのが見えた。
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