#479 『御百度参り』
東京と埼玉の県境に、見事な梅の花の咲く高台の寺がある。
その寺の境内を横に抜け、墓地へと向かうその道すがらに、少々おかしな石段がある。いつ行ってもそこから上へと登れないよう、木の柵が渡され“参拝を禁ず”の札が立っているのである。
私と友人は、年に二、三度、その寺を訪れる。お互いにカメラが趣味で、その寺の四季の花を撮りに訪れる。
ある年の事。たまたま住職とお会いし、互いに挨拶を済ませた後、「あの、境内横の石段ってどこに通じているんですか?」と、友人が興味本位で聞いたのだ。
すると住職、「神社ですよ」と、迷う様子もなくそう答える。神道と仏教では信仰がまるで違うのだが、そこの神社も私共が管理しておりますと言うのだ。
それを聞いた友人は、尚も質問を続ける。いつも私達が疑問に思っている、どうして参拝を禁じているのかを。
「あぁ、あれはね――」と、流石に住職も口ごもる。「毎日、そこを参拝する方がいるんですよ」と笑い、その人の邪魔をしないよう、一般の人が立ち入らないようにしているのだと言う。
そして私達は、特別にそこの参拝を許された。但し、夕刻までには降りて来る事と、そして下りの道は石段ではなく、隣に続く女坂の方を降りて来るようにと約束させられた。
人の来ない、木々に囲まれた神社は、とても神秘的な佇まいだった。私達は参拝を済ませた後、一通りその辺りを撮影して回り、そして住職との約束通りに女坂の方を巡って降りて来た。
その後、住職様にお茶をご馳走になり、他愛もない長話を経た後、寺を後にした。
外へと出ると、そこは綺麗な夕焼け空だった。私と友人は、「マジックアワーだね」とはしゃぎ、ちょうど見頃のツツジの花を、夕暮れを背景に撮りまくった。
その帰りの電車、お互いに写した写真をカメラのモニターで確認していると、友人が妙な声を上げる。
「ねぇ、ここ。変な子供が写ってる」
今時は無いだろう、白い無地のタンクトップに半ズボン。足は裸足でその頭部は坊主頭だ。そしてその子は、例の立ち入り禁止な神社の石段の方へと向いている。
写っていたのはその一枚だけ。果たしてそれが実在した本当の子なのかどうかは分からない。ただ、夕刻までには降りて来るようにと、厳しく言っていた住職の顔が思い出された。
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